ハーメルン
実況パワフルプロ野球‎⁦‪-Once Again,Chase The Dream You Gave Up-
第6話 恋恋野球部始動

 早川と高木幸子のわだかまりも消え、俺たちが野球同好会専用のグラウンドを使えるようになってから既に二週間が経過した。
 実際、そこからは何も進歩もしないまま俺と矢部くん、星に早川と部員数は以前、四人のままであり出来る練習は限られる中、四月もいよいよ終わりを迎えようとしていた。
「はぁはぁ……」
「矢部ェ!! だらしねェな、もう息切れかよ!!  お前は、短距離は速いくせに長距離は全くダメだな!!」
「い……や、まだま……だでやんす!  オイラの力は……こんなもんじゃあ……ないでやんすよ!」
「ハハッ!! 完全に息切れしてるじゃねェか!!」
 星は呆れてながら自分のペースを保ったまま矢部くんを軽く追い抜き去って行く。
 最初、二人仲良く息切れしてコントのような『茶番』をして遊んでいたと言うのに随分と俺と早川のペースに食らい着いてこれるようになったのは流石だと、感心する。
「星くん、だいぶボク達に着いてこれるようになったみたいだね」
「ああ、元々のポテンシャルが良いんだろうな。赤とんぼ中学じゃなくて設備や環境の良い学校に居たら、もしかしたら星のヤツ、結構化けてたんじゃないか? ま、性格云々は変わっては居ないとは思うけどな」
「……そうなんだ。あ、そうだ。小波くん。キミに言い忘れてた事があるんだけど」
「なんだ?」
「実は明日ね?  マネージャー希望の子が来るんだけど時間とか大丈夫?」
「マネージャー? ま、時間には全然余裕はあるし確保は出来るとは思うけど……。早川、よく考えてもみろよ。今の俺たちは現状、四人しか居ない同好会なんだぜ。マネージャーより俺は早く部員の方が集まってくれると大助かりなんだけど」
「まあまあ、分かるよ。小波くんの気持ちも、でもどうしてもその子が野球部のマネージャーがしたいんだって言うんだよ?」
「うーん。分かった。それじゃ、明日の部活が終わった時にそいつを紹介してくれよ」
「うん、分かったよ。それに……ありがとう。小波くん」
「おいおい。いきなり感謝されるとなんだか怖いんだけど……」
「何よッ!」
 ギロッと、目力を込めて俺を睨んだ。
「あの……早川さん? 一応、聞いておくけど、それは一体何の感謝ですか? 別に俺はお前に感謝される筋合いはないと思うんだけど」
「ううん、そんな事ないよ……。キミには、色々感謝したくてもしたりない位の事をしてくれたもん!」
 本当に大した事してないから裏がありそうなのが逆に怖い。
「そうか。なら、その感謝は素直に受け取っておくとするよ」
 今日も、俺たち野球部はいつもの「恋恋ロード」を駆け足で走り抜けて行った。

「部員が集まらない」
 落胆した声で呟き、ガクリとうな垂れる。
 部活が終わった小波球太はパワフル高校の栗原と『ある店』で晩ご飯を食べに来ていた。
「仕方ないじゃないのよ。元々恋恋高校の男子生徒って七人しか居ないんでしょ? 皆が皆、野球好きとは限らないのは当たり前だよ」
「そんな事は分かってはいたんだけど、な」
 小波は、事前に頼んでおいた冷えたウーロン茶のグラスをコースターの上に置きながら、気を落とした声色で言う。
 周りを見渡すと洒落た電球色が店内に色を付ける。
 何年も変わらない景色はいつ来ても心を落ち着かせると不思議な気持ちになった。
 小波球太と栗原舞は頑張市の『パワフル商店街』に位置する『パワフルレストラン』に居る。ここで働く従業員の夫婦がそれぞれ店長と副店長を務めているファミリーレストランだ。

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