1頁 展望
【本書が唯一記録する、『私』に纏わる想いの欠片】
――認められるか、こんな事が。
彼女は優しい子であったのだ。聡い子であったのだ。
凡そ「悪」という言葉から程遠くに位置した、純真無垢な子であったのだ。
あのような異能を持ちながら、真っ白な人の心を持っている。それがどれほど尊い事か、貴様らは理解していなかったのか。
力だけを見るのではない。より深い、人間としての本質を見定めるべきだった。
あの子は笑顔を見たかったと言っていたよ。貴様らのような下衆で傲慢な輩の笑顔を、笑い声を聞きたかったと言っていたんだ。
怪異の血が混ざっていた事が何だという。それでもあの子は正道に居たではないか、ただ焼き屠るだけの貴様や覗き見しか出来ない我らよりもずっと真っ直ぐに立っていたではないか。
……妻も息子も守れず一族の血を絶やした私にとって、彼女は唯一の希望であったのだ。
異能の類似だけでは無い。絶望と喪失の淵に立っていた私に、暖かさを思い出させてくれたのだぞ。彼女にどれだけ救われたか、貴様に分かるか?
そうさ、分かるものかよ。老骨である私と違い、貴様にはまだ未来が在る。それは彼女にも与えられるべきものだった筈だ。
そんなにも血が大切か。そんなにも外聞が大切か。そんなにも貴様は。
――――――――。
……そうか。ならばもう、良い。何も期待せぬ。
ここより先は私一人で往く。貴様があの子を、そして私を認めなかったように。私もまたこの結末を認めない。
無駄だと嗤うか、それも良いだろう。こちらに近寄らぬならば気にもせん、好きに貶し言を吐くが良い。
嗚呼、待っておれ。私の寿命が尽きるまで、何もかもを懸けてお前の魂を復元してやる。金も、手段も、身体も、倫理でさえも。文字通り全てだ。
おそらく策が成るのは遠い遠い未来となるだろう。それまでの間に生まれる罪は皆私が背負うつもりだ。
そうだとも、そうだとも。お前は気にせず眠り続けておれば良い。どのような外道に逢おうとも、その一切は覚えんで良い。忘れ、惑い、最後に笑え。
なぁ、私の可愛い可愛い孫娘――――――――さとりの愛遺子や。
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