第9話
「C級隊員……!?」
「うそ……!?」
彼の報告に嵐山隊が驚きの表情を上げる。
そんな彼らに三雲修は浮かない表情で名乗り出た。
「C級隊員の三雲修です。
他の隊員を待っていたら間に合わないと判断し――トリガーを使用しました」
己のやったことを理解しているのだろう。C級隊員の基地外でのトリガー使用は隊務規定違反だ。三雲の顔は優れない。
しかし、嵐山はそれを吹っ切るように彼に笑いかけた。
実際犠牲者が出る可能性があった。しかし現実は負傷者ゼロで、それは三雲のおかげだと。さらに彼の弟と妹が居るらしく、嵐山はその二人に飛びついた。本人たちは恥ずかしがっているが。
「それにしても、訓練用トリガーでモールモッドを倒すなんて……正隊員でもなかなかできないぞ!」
「隊長。違反者を褒めるのはやめてください」
嵐山さん達に任せれば良いだろう。
そう思った彼は嵐山隊の時枝充と共に現場調査を行う。嵐山隊が来るまえに一通り行ったが、それでもイレギュラーゲートの原因は分からない。
壊された校舎を見て、最後に三雲が撃退したモールモッドを調査する。そのモールモッドからは確かに三雲のトリガー反応があり、彼が嘘を吐いていないことが分かった。先日ボーダー外のトリガーで破壊されたトリオン兵が発見されたので、調査をいつもよりも念入りに行う必要があったのだ。
「それにしても、鋭い太刀筋だ……君の入隊試験を思い出すよ」
彼にとっては苦い思い出である。
後は回収班を呼ぶだけとなった彼らは、嵐山のところに戻った。しかし、何やら木虎と空閑が言い争っているらしく、場の雰囲気は少し暗い。
それを察した時枝は木虎を諫めるも、彼女は納得していないようであった。
「しかし時枝先輩……。
最上くん。あなたからも彼に言ってあげなさい!」
急に話題を振られた彼はピタリと動きを止める。
何故こんな空気の時に限って巻き込むのか。彼は木虎に対する非難を抑え込み、視線を三雲へと向ける。
彼はとりあえず三雲に礼を言った。すると場が騒然とする。何故だ。
「も、最上くん……!?」
彼は思う。もし三雲が居なかったら、と。
彼は急いで引き返したが、校舎を見れば間に合っていないのは明白だ。彼が倒したあのモールモッドだって位置的に見れば、三雲に駆逐されていたのは想像に難しくない。確かに隊務規定違反だが……よく考えれば彼があと少し校舎に居れば未然に防げたことである。
そのことを噛み砕いて伝えると、さらに驚かれた。
「……あまり自分を追い込むな最上。もしそれでも負い目を感じているなら、上に三雲くんのことを口添えしてくれないか?」
そう言われて何の事だ? と疑問に思い……彼は顔を青くした。
彼は特別防衛任務に就いている身。つまりイレギュラーゲートの対応が今の彼の仕事だ。それを失敗したということは……。
訪れる(かもしれない)未来に彼は震えた。
仕事終わったら三雲をヨイショしよう……。
ボーダーに入って少しだけ優しくなった彼だが、結局保身に走るその姿を祖父が知れば――おそらく涙を流すだろう。
ああ、なんて小心者だ、と。
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