第19話
空が、黒く染まった。
「――早いな」
日常が非日常へと変わるその瞬間を、迅はその眼で見ていた。
「門の数37、38、39、40……!
依然、増加中です!」
「任務中の部隊はオペレーターの指示に従って展開!
トリオン兵を全て撃滅せよ! 一匹たりとも警戒区域外に出すな!」
沢村はモニターに映る門の数に臆することなく、忍田の指示の防衛任務中の元各部隊には情報の伝達、非番の隊員には緊急招集をかける。
「トリオン兵はいくつかの集団に分かれてそれぞれの方角の市街地に侵攻中!
西・北西・東・南・南西の5方向です!」
敵の戦力が分散したことに、忍田は内心舌打ちを打つ。
各個撃破をするには相手の数はあまりにも多い。従って、こちらの戦力も分ける必要がある。
敵の狙いや正確な戦力が分からない以上あまり取りたくない選択肢だが、それでもこのまま好き勝手暴れさせるつもりはない。
忍田はすぐに決断すると指示を出す。
「現場の部隊を二手に分けて東と南西に向かわせ、それぞれの敵に当たらせろ!」
「了解!」
「ち、ちょっと待ってください本部長! それでは他の三方向に被害が……!」
根付は忍田の指示に異議を出す。
このままでは彼の指示した方角以外の敵が警戒区域の外へと飛び出し、民間人に被害が及んでしまう。それを危惧しての言葉だったが……。
「そちらの方は問題ない」
「え?」
根付の戸惑いの言葉と共に、北西と南のトリオン兵の反応が瞬く間に消失していく。
それと同時に二つの特異的なトリオン反応が、本部のレーダーに映し出される。
その二つの内の一つは――風刃。
「すでに三方向には――天羽、迅、そして最上が向かっている」
◆
不思議な感覚だ、と彼はトリオン兵を斬り裂きながら自分に戸惑っていた。
迅や太刀川、風間隊との訓練の日々は彼にとってトラウマとなりつつあった。
防衛任務の時は横で眺めていた頭のオカシイ剣が、己に向かって振るわれていたのだから仕方無い。それが無限に続くのだから尚更だ。
今回の件の首謀者である迅に対して、理不尽だと怒りと不満を抱いていたほどに彼はここ最近のボーダー生活に疲れていた。
しかし、今この時は、それらを忘れさせるほどに――彼に衝撃を与えた。
「――」
砲撃音が聞こえた彼は、視界の隅に居るモールモッドをちらりと見て足元のアスファルトを斬り付る。そしてすぐさま自分は、愚かにも彼に向かって攻撃したバンダーに向かって駆け抜ける。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/4
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク