ハーメルン
俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~
織斑家のぶらり温泉旅行
日本のどこにでもあるような山間の温泉街。
そこを私、織斑千冬は弟の一夏と一緒に歩いている。
「千冬姉! 早く早く!」
「一夏、危ないからちゃんと前を向いて歩け」
はしゃぐ一夏に思わず苦笑しそうになる。
辺りには硫黄の匂いと露店の食べ物の匂いが混ざり合い混沌としている。
初めてな場所なのに心が落ち着くのは日本人の血のせいか。
「千冬姉、あれ、あれ食べよう」
一夏が指差す先には露店の温泉まんじゅう屋。
蒸したてなんだろう。良い匂いはこちらまで漂ってくる。
「宿に着いたら食事だ。あまり食べ過ぎるなよ」
「わかってるよ」
そう言って店に向かう一夏。
一夏は出来た弟だ。
我が儘は言わないし、買い食いなどもしない。
その一夏が自分から食べ歩きしようとするなど今まで無かった事だ。
癪だが神一郎には感謝しなければならない。
事の始まりは神一郎に渡された電車のチケットとプリントされた旅館までの地図だ。
剣道大会の時に言っていた一夏へのプレゼント、どうやら本気だったらしい。
それを私は断った。これ以上アイツの施しを受けたくなかったからだ。
しかし、神一郎は私の答えを予想していたんだろう。笑いながらこう言った。
『千冬ちゃんは一夏の笑顔と自分のプライドどっちが大事?』
一瞬殴りそうになったがグッと堪えた。殴ってしまえば負けた気がするからだ。
言われるまでもない、大事なのは一夏だ。
そんな私を見ながら神一郎は笑っていた。
正直こいつの笑顔は苦手だ。精神年齢が年上だと知っているが、まるで頑固な妹を見ているかのような優しい目付きをする時があるからだ。
神一郎が背伸びをして私の頭を撫でる。
『借りだと思うなら、『ありがとうお兄ちゃん』って言ってごらん?』
結局私は神一郎を殴った。ついでにチケットと地図も奪い取った。
何が兄だ。私の家族は一夏だけだ。
思い出したらイライラしてきた。帰ったらもう一発殴ろう。
「千冬姉、買って来た!」
物思いに耽っていたら一夏が戻ってきた、その手には小さな紙袋が握られている。
「はい千冬姉の分」
一夏の手には小さなまんじゅうが一つ乗っていた。
「いらん、お前が食べろ」
言ってから後悔した、一夏の顔が歪んだからだ。
私はただ、私の事を気にぜず一夏に美味しいものを食べて欲しかっただけなのに。
自分はなぜこんなにも不器用なのだろう。これでは束の事を笑えんな。
「一夏、私はまだお腹が空いていないだけだ。だからお前が全部食べて良いんだ」
なんて見苦しい言い訳。本当に嫌になる。
一夏が悲しんでいないか恐る恐る確認する。
「千冬姉、これ読んで」
その一夏はなにやらポケットから紙を取り出し渡してきた。
手紙? なぜこのタイミングで?
疑問に思いながら手紙を開く。
『不器用なお姉さんへ
実はここ最近、一夏は俺の所でバイトしてました。内容は、部屋や風呂場の掃除、釣った魚の下ごしらえなど、まあお手伝いですね。ちなみに、一夏がお金を欲しがった理由は『せっかく旅行に行くなら千冬姉に何かしてあげたい』だそうですよ。健気な弟だよね? だけど、千冬さんの性格を知ってる身としてはちょっと心配だったので、“千冬さんが一夏の気遣いを断った場合”この手紙を渡すように言ってあります。この手紙を読んでる時点で俺の心配は大当たり。まったく愚姉なんだから、千冬さん、貴女は“一夏が貴女の為に一生懸命働いた気持ち”を無駄にするつもりですか? さっさと一夏に甘えなさい。
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