ハーメルン
【子蜘蛛シリーズ1】play house family
No.020/理想のパパ



「小さい割によく食べるな」
「んー」
 昼前に屋台のホットサンドを食べてから何も食べていないシロノは、シルバに挨拶をする前に、くう、と腹を鳴らしてしまった。

 そのおかげで、シルバはこうしてホテルのレストランで食事をご馳走してくれたわけだが、その際、金を持っていない、というシロノにも驚いた。
「来れるか来れないか確率半々、と思っていたんだが……」
 それは道に迷うかも、ということでの予想だったのだが、シロノは一銭も持たずに国ひとつを越え、時間きっかりに指定場所に現れたのだ。
 シルバは片手で頬杖をつき、向かいでチャイルドチェアーに座って、もくもくと大人用のハンバーグセットを食べているシロノを見遣った。

「さすがは蜘蛛の子だ。……どんな教育をしているのか少し興味が」
「……あたし、もう蜘蛛の子じゃない」
「うん?」
 やや不器用にハンバーグを切り分ける手を止めぼそりと言ったシロノに、シルバは首を傾げた。
「あたし、大人になったら売りとばされるんだって。だから出て来たの」
「それはまた」
 ヘビーな理由だな、と、シルバは肩をすくめた。
 首領の男──クロロは若くしてかなりの実力があったし、そういう人間が若さに任せて残酷な行為に走ることは珍しくない。
 今最も話題の新鋭A級盗賊団ともなれば、そういうこともするのだろうか、などと考えながら、シルバは頼んだコーヒーを啜った。

「それで、これからどうするつもりだ?」
 レストランのウェイトレスが、忙しく歩き回っている。
「……わかんない」
 シロノは無表情のまま、ハンバーグをひとくち口に入れて咀嚼した。

「そうか」
 ざわざわとした喧噪の流れの中、ひとつのテーブルに沈黙が降りる。
 再度もくもくとハンバーグを食べ始めたシロノを、シルバは見遣る。驚くべきことに、大人用のセットはほぼ全てが食べられ尽くしていた。

「やることがないのなら、とりあえずこれから俺の仕事を手伝ってくれ」
「シルバおじさんのおしごと?」
 きょとん、と、シロノは口の端に少しソースを付けて聞き返した。
「実は、下心がまったくなくて呼び出したわけでもなくてな。一人でやれない仕事でもないが、お前が居ると助かる」
 シルバはそう言って、持っていたコーヒーカップをテーブルに置いた。
 彼の所作はきびきびとしていつつもゆっくりもしていて、どこか大型の猫科の獣の動きを思わせ、ふとした時は優雅にすら見えた。

「おしごとって、暗さ」
「こら。誰が聞いているかわからんだろう」
「ごめんなさい。おくちにチャックね? チャックね?」
「そう、チャックだ」
 ナイフとフォークを離し、口の前で指のばってんを作って言うシロノに、シルバは彼特有の、王様のように重々しい仕草で頷いた。
「それで、どうだ?」
「んー、いいよ。ごはんもらったし」
「安い依頼料だな」
 シルバは笑った。
「では、それを食べたら準備だ。やってもらうことはそのとき話そう」



 シロノが連れて行かれたのは、すぐ近所にある盛装・正装専門のブティックだった。
 適当にしてやってくれ、と言うシルバにスタッフは頷き、シロノは数人掛かりで飾り立てられ始めた。まず着るものを選ぶところから始まり、次に髪をいじられる。

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