ハーメルン
【子蜘蛛シリーズ1】play house family
No.005/うそつきはどろぼうのはじまり



 最後にシロノが「いってきます」と言ってドアを開けて閉める仕草をすると、あの強固な見えない壁、『レンガのおうち』は消えてしまった。

「あの『家』は“円”を固定したものだからな。その持ち主が中からいなくなれば消える、ということだろう。では次は……パク」
 クロロが指示すると、パクノダはもう一度シロノの肩に手を置いた。
「なぜ私たちの名前を知っていたの?」
「あのね、ママが教えてくれたから」
「……だそうよ」
「は?」
 シャルナークがぽかんとした顔を向けると、パクノダは肩を竦めて首を振った。
「この子の言ってる通り。“ママ”が知ってた、ってだけだわ」
「質問を変えてみろ」
「そうね……。じゃあシロノ、“ママ”はどういう人?」
 そう質問したパクノダだったが、しばらく考え込み、そして眉を顰めた。

「……どういうことかしら」

 彼女の力を持ってしても、“ママ”に関しては断片的な“記憶”ばかりで、はっきりとは分からないのだという。
「でも……、この子の記憶によると、“ママ”は念能力じゃないわ。……多分、人間」
「それは、今日俺たちが見た“ママ”と、人間の“ママ”は違うもの、ということなんじゃないのか?」
「いいえ、同じものよ。この子が混同してるのかもしれないけど……」
 パクノダはちらりとシロノを見遣った。
 シロノは子犬のようなきょとんとした表情で、考え込む大人たちを見回している。

「でも、“ママ”が意思や思考のある存在なのは確かね。それと、この子をとても大事にしてる。何があっても守る、って何度も言ってるのが見えたわ。この子に危害を加えようとする衝撃が来た時、“ママ”が自動的にガードする……っていう情報も見えた。完全に防ぎきるのは無理みたいだけど……」
「ああ、俺が手を弾かれたやつか」
「あのね」
 自分が話題ではあるが、大人の話に口を出していいのだろうか、という考えがありありの様子で、シロノが口を挟んだ。

 その毒気のない様に絆されたのか、「なあに?」とパクノダがいつになくやさしい声を出すと、シロノはなぜか一度、なんの意味もなさない背伸びをして、もう一度、「あのね」と話しだす。
「んと、ママがね」
 子供は、じっとクロロを見て言った。

「理由もなくこどもをぶつ家族は、最低なんだって。だからね、あたしをぶったら、ぶちころしてやるって、ママが」
「……く、」
 それは怖いな、と言いながら、クロロは笑った。
 クロロ自身、なぜこんなに笑いが漏れるのかよく分からない。だが、この状況にあって、全く焦燥感のない子供の様子がひどく愉快だった。
「ぶち殺してやる、か。“ママ”は少々ガラが悪いらしいな」
 クロロはまだ笑っている。やたらに機嫌のいい彼に、団員たちはやや訝しげな表情をした。

「とにかく、それ以上は分からないわ。質問を変えてみる?」
「いや、今日はとりあえずもういい。あとは水見式をやらせてみてからにしよう」
「しかし、なかなか面白い能力ね。私なら自分以外全員“犬”にするよ」
 フェイタンが淡々と言った相変わらずのドS発言に、全員が微妙な顔をする。
「あ、ダメよ。“こども”と“ペット”だけの発動はできないわ。核家族揃っていないと……“ママ”は固定だから、つまり“パパ”と“こども”は設定しないとダメね」

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