No.004/険しきかなスシ道
その後、レオリオが迂闊にも「魚ァ!?」と叫んでしまったため、受験生は全員が川や沼に向かってしまった。
そんな中、シロノは無人と化した調理場で、腕まくりをすると見えそうになる蜘蛛のブレスを上にたくし上げながら、黙々と作業を続ける。そしてちらほらと魚を抱えた受験生たちがどう調理するかと迷っているとき、シロノは出来上がった“スシ”に半球型の銀色の覆いを被せると、メンチの所まで持って行った。
「よろしくお願いしまーす」
「アラー、あなたが一番乗り? どれどれ」
メンチはいかにも食いしん坊な表情で、銀色の覆いをぱっと持ち上げた。そして中から現れたものを見て、一瞬目を丸くする。
「うぅ~~~ん……、惜っしい! 確かにスシだけど!」
「あー、やっぱ違うんだ……」
そこにあるのは、厚めの葉っぱを丸く整えて小さめの器にし、酢と調味料で味付けした白米を敷き、その上に魚の切り身を数種類丸く並べ、そして焦げ目がないように焼いて千切りにした錦糸卵と小さく切った野菜、そして赤い小さな果物がちょんと綺麗に飾ってある──
「……散らしズシ、だね」
ブハラが言った。
「う~~ん、なかなか綺麗な錦糸卵! その歳にしては上手ね~。料理は誰に習ったの?」
「お姉ちゃんとかお兄ちゃんとか……錦糸卵はお姉ちゃんのほうが、あたしよりもっと上手」
ちなみにマチの錦糸卵は、まさに糸のように細くてふわふわしているのに弾力があり、さらに全くパサついていないという神業レベルの逸品である。
「うん、魚の切り方も、一般家庭レベルでは合格ラインね。野菜も簡単だけど飾り切りにしてあるし、それに彩りが綺麗でカワイイわ! 葉っぱを器にしてあるのもいい感じ」
「女の人用のお弁当で売り出したら、ウケそうだね」
「そうね。料理は見た目も大事だからね、センスはあるわ! どれ、味は?」
「あ」
合格じゃないのに一応食べるのか、お腹いっぱいになったら終了なら出来るだけ食べないほうがいいんじゃないのかなあ、などとシロノは思ったのだが、わりと真剣な表情で散らしズシを食べている試験官に口出しするのも憚られ、シロノは彼女を見守った。
「うん、ごはんの味付けは可もなく不可もなく、普通ね。錦糸卵はちょっと太めだけどパサついてないし、自分の技量を的確に心得た感じでむしろ好印象。野菜も飾り切りしてる割には冷やしてあって体温が移ってないし、何より川魚っていう最大のネックをわかってて、お酒とか醤油、生姜、湯通しを使って泥臭さをちゃんと消してる。基本中の基本ができてるわね」
そう言いながらも、メンチはぱくぱくと散らしズシを平らげていく。かなり小さめとはいえ、散らしズシ一人前を食べてしまっては腹具合を満たしてしまうのではないか、とシロノは慌てた。しかしメンチは半分と少しほど食べると、少し興味を持ったらしいブハラに残りを譲ったので、シロノは少しホっとした。
「うん、回数こなして手慣れた子が作ったって感じ。普段から料理してる?」
「あ、うん。パパと暮らしてるけど、パパ好き嫌い多くて味にうるさい割に家の事何もしないから……」
「あっらー、小さいのに苦労してるのねえ。あれでしょ、せっかくゴミわけてるのに平気で台所以外のゴミバコに生ゴミ捨てたりするでしょ」
「なんでわかるの!?」
「そーゆー男のパターンは決まってるのよ。しかもそれで小バエが発生したのに文句たれたりすんのよね」
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