紡ぐ者たち
「それでも、やがて人々は地動説を受け入れた」
その瞳の奥に強い光を宿して、言葉を続けた。
「いつか、人は再び幻想を受け入れる。その時こそ、博麗大結界はその効力を失ってしまうでしょう」
博麗大結界は常識の結界。幻想が否定されているからこそ作用する強力な論理結界だ。
逆に言えば、幻想が肯定されると結界は意味を失う。
そして外の世界の人々は、『幻想』を観測する術を手に入れている。
今はそれが何なのかわからなくとも、いつかは「それ」は「そういうもの」なのだと、幻想を理解するだろう。
その時、幻想郷の住人たちはどうするのだろうか。
雅季自身は生きてはいないが、結代家は続く。
そして、八雲紫を含めた妖怪や神のほとんどが、当事者としてその時を迎えることだろう。
また『月』も本当の姿を現世に晒す羽目になる。
それは果たして良縁となるのか。
先のことはその時の人々の思い次第だが、少なくとも今代の結代としては、現在の世界と幻想を結ぶのは悪縁にしかならないと判断している。
「少なくとも今、現世と幻想を結ぶは悪縁以外の何者でもなし。結代としては悪縁が良縁となるまで、両者を『離し』『分つ』ことでしょう」
「ええ。それには同意しますわ」
「それを踏まえた上で、妖怪の賢者殿にお尋ねします」
雅季は『結代雅季』としてではなく、『今代の結代』、そして『結び離れ分つ結う代』として問う。
「なぜ、私を魔法科高校へ勧めるのでしょう?」
結代雅季が魔法科高校に入学を希望するのは、外の世界でやっている自分の趣味のためだ。
八雲紫が求めている理由とは全く違う。
ならば、彼女は何を結代家に求めているのか。
結代の問いに、紫は目を細めて扇子をパチンと閉じた。
「外の世界で、再び流れ始めた動きがあります」
そして、いつもの真意を見せない笑みを浮かべて、紫は問いに答えた。
「その動きに最も関わるであろう者たち、魔法師はあの学び舎に集う。そして、結代家もその動きを無視できないでしょう。――百年前と同じように」
最後の一言で、結代雅季は流れ始めた動きが何なのかを察した。
「――なるほど、それは結代としては放置できませんね」
ふぅ、と雅季は大きく肩を落とすと、再びお茶を啜り一口飲み干した後、答えた。
「わかりました。魔法科高校に入学し、彼ら彼女らの縁を紡ぎましょう。いずれ来る時のために――」
「ええ、お願いしますわ。今代の結代にして結び離れ分つ結う代、結代雅季」
終わりを求める者たちと、紡ぐ者たち。
対を成す者たちが静かに動き始めたころ。
二人の兄妹が魔法科高校への進学を決める。
波乱の日々が始まるまで、あと少し――。
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