15.『福路美穂子と出会い』
美穂子と京太郎が出会ったのは四月の上旬。部活動が本格的に始まった頃――咲が入部を決めて間もない――のことである。
簡単な言葉で片づけるならばただの偶然。
しかし、ロマンチックの側面では必然というのかもしれない。
京太郎が雑用係で、美穂子が率先して雑用をする性格で、近場に麻雀専門店は一件しかなく、京太郎がお人好し。これらの要素のうち、一つでも欠けていれば二人の人生は交差することはなかったのだから。
「ふぅ……ちょっと休憩」
頼まれた荷物を隣に置き、京太郎はベンチに座る。ハンドボール部を引退してから受験勉強で忙しかったつけがきていたのを実感していた。
早朝のランニングは欠かさないようにしていた京太郎だが、坂の上下による緩急の激しい道はまだ厳しいみたいだ。自転車じゃなくて歩きというのも問題かもしれない。
買ったレモンティーを一口含み、疲れた体を癒す。
「思ったより重いんだな、牌のセットって」
一つ一つは軽いのに全て合わさればそこそこの重量になる。それが四セットとなれば男子でもキツイ……と思っているところに店から出てきた女性。ふらふらと足取りは不安定で、原因はパンパンに膨れ上がった紙袋にあった。
あれは不味いんじゃ……と京太郎が思って束の間。
「あっ」
買った商品を入れた紙袋の持ち手が千切れてしまい中身が溢れ出す。
満杯を越える詰め方をされていたようで落ちた衝撃で開いたケースから牌がジャラジャラと散らばった。
困った表情で集め始めるが、計544枚も一人で終えるにはかなり時間のかかる作業になるだろう。
……やっぱり放っておけないよなぁ。
京太郎のお人好しは誰にでも発揮する。男友達には聖人君子かと嫌みを言われたこともあるが、この性格のおかげで咲やモモと出会えたとも思っている。
だから、京太郎はそんな自分が嫌いではなかった。
「大丈夫ですか?」
お世辞にも俊敏とはいえない動きで回収していた女性に話しかける。
彼女は行動を中断して、京太郎を見上げた。閉じられた右目と赤色の左目。燻った京太郎とは違い、綺麗な金髪の彼女は戸惑った表情を浮かべていた。
いきなり見知らぬ男に話しかけられたら誰だってそんな反応を返してしまうだろう。
だから、京太郎も返答を聞く前に牌を拾い上げて協力する意思を示す。
「お手伝いさせてもらいますね」
「あっ、ありがとうございます」
それから二人は黙々と回収作業を再開する。途中で京太郎が店員にも手伝いを頼んだことでスイスイと進み、10分も経てば見える範囲では拾い終えた。
「白……撥、中……。はい。これで全部確かにありました」
「それは良かった」
最後の牌もケースに入れて、欠けがないことを確認した女性は笑顔を咲かせる。
それを見て、心が満たされた京太郎もまた微笑してその場を去ろうとした。
だが、腕を引かれて止められる。
「あ、あの!」
手を握る少女の力は一層強くなる。何だろうと思う京太郎。相手から出た言葉は予想外のものだった。
「そこでお茶しませんか?」
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