第一話
迷宮都市オラリオ。
世界唯一の迷宮都市で広大な都市の中央には天を衝く白亜の摩天楼。
摩天楼施設『バベル』を中心にして――――つまり都市の名称通り迷宮を起点にして――――このオラリオは栄えていた。
その特性からオラリオには数多くの冒険者が存在し、その冒険者が向かうダンジョンにはまだ見ぬ『未知』が眠っている。
未知という名の興奮、巨万の富、輝かしい栄誉、そして権威。
その全てがこの都市には揃っている。
しかし、その迷宮都市オラリオの薄汚い路地裏には世界に、都市に、自分に絶望して壊れた者達もいる。
「このクソガキがッ!!」
路地裏で数人の中年冒険者が白髪の一人の少年を殴り、少年は壁に叩きつけられる。
「…………」
少年は痛みを感じていないのか、もしくはそんなのどうでもいいかのようにただ睨むように自分を殴った冒険者を見る。
「オラッ!」
「ガハッ!」
腹を蹴られて蹲る少年の顔を冒険者は蹴って倒す。
「おい、その辺にしとかねえと死ぬぞ、コイツ」
「……それもそうだな、まぁ、こんなガキが死んだところでどうもしねえがな」
ゲスの笑みを浮かばせながら去って行く冒険者達。
しばらく経ってから少年は蹴られた腹を押さえながらその場から消える。
今日はまだマシだったと思いながら少年は食べ物を求めてゴミを漁る。
この都市の冒険者は血の気が多い為か、先ほどの冒険者達はストレス発散の為に少年をいたぶって楽しんでいた。
だけど、少年はそんなことどうでもよかった。
今更そんなことに気にしても意味がないと理解しているからだ。
どうせ、この薄汚い路地裏で自分の人生は終わるのだからと。
飢えて死ぬか?
冒険者に嬲り殺されるか?
そうなる前に自殺でもするか?
どうせそうやって自分は死ぬのだと少年は既に理解している。
「いっそのこと……全部壊れちまえばいいんだ……」
世界も都市も種族も何もかも全てが壊れてしまえばいい。
少年は自虐的な笑みを浮かばせながらそんなことを口走った。
言っても意味がないことと理解しながらも言わずにいられなかった。
「物騒なことを言う子がいるわね」
その時だった。
少年の前に一人の女神が現れたのは。
白い長髪の女神。女性から見ても羨ましがるようなプロポーションにその瞳は少年の心を見透かしているかのような眼力。
そんな女神が少年の前に現れた。
「私の名前はアグライア。最近この世界に降りてきた女神よ」
アグライアと名乗る女神は少年に近寄って至近距離で少年の顔を覗き込む。
「………?」
いきなり顔を覗き込まれた少年は困惑するが、アグライアは一笑して離れる。
「私がこの世界に降りてきたのは【ファミリア】を作ろうと思ったからよ。そして、私は貴方と出会ったわ」
アグライアは少年に告げる。
「私の眷属になりなさい」
その一言が全ての始まりだった。
少年―――ミクロ・イヤロスと女神アグライア。
小さな路地裏で一人の少年と女神は出会った。
神が下界で許されている『神の力』によって下界の子に『恩恵』を与えてその神の眷属にする。
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