16話
ジャスティン・フィンチ-フレッチリーと「ほとんど首なしニック」が襲われてから、四ヶ月が経過しようとしていた。次は誰か、と戦々恐々としている生徒は、もはや皆無だった。
季節は三月になり、マンドラゴラの成熟も近く、二年生は三年生に取る選択科目を選ばされ、何者かによる襲撃事件はこのまま鳴りを潜めるのではないかと思われた。
グリフィンドールは土曜日にクィディッチの試合を控えていた。対戦相手はハッフルパフだ。金曜の夕方、談話室は熱気付いていた。明日の試合は、学年末の寮対抗杯までかかっているという話だ。盛り上がっている寮生達の間を他人事の様にすり抜けて、オーシャンは鞄を置きに寝室へと戻った。
ドアを開けると、そこには今朝方までの面影は無かった。オーシャンのトランクの中身がぶちまけられ、ベッド脇の小机の中身も、床やベッドの上に散乱していた。天盖付きベッドのカバーは乱暴に剥ぎ取られて、床の上にはマントが無惨な姿で広げられていた。
地震が起きても慌てず騒がず、が鉄則の日本人である。寝室が大惨事に見舞われていても、さして驚きはしなかった。まず、大方室内を吟味する。結果、狙われたのはオーシャンの物だけだった。
「…やられたわね」
小机の引き出しがひっくり返されているのを見て、ピンと来た。調べてみたら、案の定である。
「リドルの日記を盗るなんて、酔狂な真似をするのは、一体誰なの…?」
次の日は気持ちの良い快晴だった。朝食の席では、グリフィンドールチームのキャプテンのオリバー・ウッドが、張り切って選手達の皿に料理を取り分けていた。
オーシャンは朝食を食べながら、同じテーブルに着いている同寮の面々の様子を、チラリチラリと盗み見ていた。
この中の誰かが日記を盗んだのは明白。グリフィンドール塔に入れるのは、合い言葉を知るグリフィンドールの生徒、その上、女子寮に入れるのは女子だけだ。
しかも荒らされていたのがオーシャンの私物のみであるところを見ると、犯人はオーシャンの鞄やトランクを知っている、ある程度交流のある人物である可能性が高い。犯人はかなり絞り込めていた。
リドルの日記が盗まれた事は、同じ女子寮のハーマイオニーだけに知らせていた。大事な試合前に、ハリーには余計な心配をかけたくなかったのだ。ロンに言うとハリーに漏れる可能性があるので、彼にも言っていない。
リドルの日記はもはやオーシャンにとってそれほど重要なものでは無かったが、しかし、ああいった「意志」を持った書物は大変危険だと、呪術師である父親から常々聞かされている。日記を速やかに見つける事が肝要だった。
競技開始の時間が近づいて、他の生徒達と共にオーシャンもクィディッチ競技場へ入った。
キョロキョロと回りを見回して適当な席を探していると、上の方の席からロンが手を振って呼んでいたので、オーシャンはロンの隣に腰を下ろした。
「珍しいわね。ハーマイオニーと一緒じゃないの?」
オーシャンがそう聞くと、ロンは「図書室に行っちゃった」と肩を竦めて言った。ロンの顔には「クィディッチの試合を観ずに、図書館に行きたいなんて言い出す奴の気が知れない」と、ありありと書いてあった。
「余程、急いで調べなきゃいけない事があったのかしら?」
友達が出場する試合を観ずに調べものをしに行くなんて、余程の急務が出来たに違いない。
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