ハーメルン
実況パワフルプロ野球 鋳車和観編
帝王VSあかつき~試合終了後と、その談義~


試合は、1-4であかつきの敗北で終わった。
―――守がいれば解らない勝負だった。それ故に、守がいなければこの程度の地力でしかないともいえる。各々、反省点は解っていると思う。帰ってから猛練習だ。覚悟しておけ。
監督は、そうこの練習試合を締めくくった。
その通りであった。
守がいない打線は機能せず、結局パワプロが勝負を避けられれば機能を停止した。後続のリリーフはクリーンナップには相手にならない。
しかし、収穫もあった。
「パワプロ」
「はい、どうしました監督」
「―――お前、最後の打席、バッティング変えてたろ?どうやったんだ?」
「----帝王の五番のバッティングを、見て。本能的にああするべきだ、と考えました」
「ほう。具体的にどの部分を?」
「流す、ではなく、押し込む―――後ろのポイントで打つとき、あの霧栖って選手は常に軸足と手首を固定して、インパクトの瞬間だけ手首を返していた。だから、バットとボールがピタッとくっ付いてて、長くボールを接地出来ていたのだと思ったんです。だから、そうしてみました。軸足を固定して、手首は限界まで返さない。そうすることで、外角の球も、長打にできるんじゃないか、って」
「----それで、どうだ」
「滅茶苦茶、身体がキツイです。―――自分のバッティングが、どれだけ楽にしてきたのか痛いほど解りました」
「感覚は、掴めたんだな?」
「はい」
「だったら、大丈夫だ―――繰り返せば、じきに慣れる。きっちり素振りをしておけよ」
「はい!」
「そのバッティングをしっかり修得すれば、お前は守よりも上の打者になれるかもしれん。頑張れよ」
「はい―――それじゃあ、ちょっと帝王の人達に挨拶しに行ってきます」
―――こうして、何かを得た人間もいる。
パワプロも、アレはアレで才能ある人間だ。
あの男は、一つコツを掴めば一瞬でそれを習得できる。
だからこそ、あの男には何よりも経験をさせる事が重要となる。実戦の最中で感じるべきモノを、あの男は実に敏感に嗅ぎ取っている。
走り去るパワプロを眺め、一つ監督は息を吐いた。



人もまばらな観戦席には、目つきが実に悪い男がいた。
―――スカウトの、影山だ。
プロ球団専属―――何処の専属であるかは秘密事項―――のスカウトであるこの男は、練習試合であれど、速やかにその足を運んでいた。
「ふむ-----」
評価が変わった者と、変わらなかった者。この二つに分類し、後者に属する人間は―――帝王は友沢、石杖。あかつきは進、鋳車であろう。
強肩強打の大型ショートと支倉の至宝の二遊間―――タイプこそ違えど、この二人は現在の高校球界屈指の二遊間だろう。身体能力抜群のスイッチヒッターに、読み勘が攻守ともにずば抜けている石杖。まだ、石杖はドラフト上位の実力はないであろうが、友沢は何処も欲しがる逸材だろう。そして、進、鋳車のバッテリーもまた凄まじい。高校生ながらあれ程完成度の高いアンダーフォームとシンカーを投げる鋳車に、その球を一度たりとも逸らす事なく攻守に渡り安定感のあった猪狩進。今日だけでこのバッテリーで12個の三振を奪っている。これもまた、何処も狙う逸材に違いない。
そして、影山の中で評価が変動した人間は、パワプロと山口であった。パワプロは上方修正。山口は下方修正。
パワプロは、最終打席で外角への長打を放った。それだけならば、芯を上手くくわせたのだろうと静観する所であるが、明らかにバッティングが違っていた。あのバッティングが出来るのならば、一気に飛躍の可能性を秘めている。

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