ハーメルン
実況パワフルプロ野球 鋳車和観編
進化の道程

猪狩守は、パワプロのフリーバッティングを見た。
その顔面は、何処までも苦悶に満ちたものであった。
軸足をゴムチューブで固定し、思い切り負荷をかけながらバットを振り抜いて行く。
その全てが、外角に投げ込まれたボールであった。
軸足を動かさず、その上でしっかりと身体の軸を後ろに残したまま、ボールを打ち込んでいく。
バットも、金属ではなく、グリップが太い一本の棒の様なバットを使っていた。
その意図は、瞬時に猪狩守には理解できた。
―――外角のボールを押し込んで長打にする為の方法だろう。
軸足を動かさず背後のポイントを維持しながら、されど軸足はブラさず、それでいてしっかりと芯を打ち抜くために―――軸足を固定し、芯を食わなければまともに飛ばないバットを用いて、彼は練習しているのだ。

成程―――僕から四番を奪う算段が出来てきた訳か。

そうでなくては、つまらない。自分の球にあそこまで付いていける人間だ。打者の自分なぞ、早々に超えてもらわねば困るのだ。
そして、鋳車和観。
奴は奴で、夏の大会までを目途に新球の開発を行っているという。スライダーとシンカー以外に、もう一つゾーン内で勝負できるボールを用意するつもりらしい。

今、投打でしのぎを削り合っている両者は、間違いなくあの帝王との試合で前進した。
立ち止まっているのは、自分だけだ。
パワプロはバッティングの変化を、鋳車は球種の変化を、それぞれが着手している。
自分は―――直球を変化させんと足掻いているが、未だ足踏みしたままだ。

「パワプロ」
そして、今日も今日とて声をかける。
「放課後、付き合ってくれ」



鋳車、パワプロ、猪狩守の三人は河川敷の下にいた。
パワプロを打席に立たせ、両者が交互にボールを投げる。猪狩は高めの直球。鋳車は新球―――スローカーブを。
「猪狩。それは駄目だ。肩の開きが早すぎる。リリースの時、左肩の上がりが極端だ。それじゃあ球の威力は増しても、空振りはとれないし肩の負担がでかくなる。それに、変化球とのリリースの差異が解りやすくなってる」
「む---そうか。そうだな」
猪狩は素直にそう頷くと、今度はパワプロに声をかける。
「パワプロ。お前は高めの直球に空振りする時はどんな球だ?」
「基本的に、二つパターンがある。リリースが極端に高いパワーピッチャーの高めの直球は凄く打ちづらいから空振りする。逆に、リリースが極端に低いのも打ちにくい」
「ふむ。それはどうしてだ?」
「大抵、リリースが高いピッチャーは球持ちは短いけどその分直球に回転がかかっているしタイミングがとりにくい上に、高めに放られるとボールが落ちる感覚が無いから打ちづらいんだ。逆に極端に低いとリリースが身体に近くなるから体感的に早く感じる。前者は、リリースの時腕を隠す技術が無いと大抵打ちごろの甘い球になるけど」
前者の代表例が恐らく上原浩二で、後者は杉内俊哉などに該当するであろうか。両者とも、「通常のリリースで投げられたケースとのズレ」を利用して空振りを取っている。
「成程----リリースの、タイミングか」
一つ頷くと、―――猪狩はふむんと一声上げる。
「少し、やるべき事が見えてきたかもしれない」
そう一つポツリと呟いた。



猪狩が帰ったあと、鋳車は自らの新球種について話していた。

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