ハーメルン
侍女のアリィは死にたくない
第14話 だって、私は死にたくない

イエヤスとサヨの、死。

貧しい村を一緒に救おうと共に帝都へとむかった大事な仲間。
しかし途中ではぐれてしまい、帝都での再会は二人がすでにアリアたちの拷問によって致命傷を与えられた後だった。
帝都の闇を間近で見ることになってしまった、あの日のことをタツミは決して忘れない。

だから、二人の死の痛みも、ずっと、忘れない――






「あんた……は……」
「誤解していただきたくないことが一点。私は二人の拷問に対して一切手を出しておりません。私はあくまで、二人をアリアに引き合わせ、彼女の本性を伝えなかっただけ。何もしていないのですよ。二重の意味でね」

加害者ではない。しかし決して善意の第三者なんかではない。

「お前のせいで……お前のせいで、二人は」
「だから私は何もしていないです。私がアリアに教えなかったとしても、何も知らない彼らは帝都の闇に別の形で引きずり込まれていたでしょう。あなたは本当に、運がよかった」

タツミの目は、怒りに燃えている。
確かに自分はあやうくアリアたちの餌食になるところだった。そこを、今は仲間となったナイトレイドに救われたことは本当に運がよかったとしかいえない。
しかし、二人が死ぬきっかけを作ったのは紛れもなく彼女だ。
たとえ直接手を下したのがアリアたちとしても。別の形として彼らが死ぬことになったとしても。

「そんなこと聞いて、俺が黙ってられるかよ……!」
「いいえ、あなたは黙ります。確実にね」

今もアリィは両手で彼の頬を押さえ、顔を近づけている状態だ。
その体勢のまま、彼女は自らの帝具を発動させた。

「イルサネリア」
「!?」

溢れ出す瘴気。
タツミはもがくが、縛られた彼が逃げ出せるわけもなく。
また突然のことだったので思わず彼は瘴気を吸い込んでしまった。これがアカメであったらすぐに息を止めることができたのであろうが、まだ暗殺者としては未熟な面があるタツミはとっさに息を止めるということができなかったのである。

そしてアリィは笑顔を見せる。
すでに感染していたが、あえて瘴気という目に見える形を見せることで彼がアリィの帝具の効果を受けたのだと理解させる。

「今のはっ」
「さあ、あなたには私の帝具の能力がかけられました。あなたは二つに一つを選択することになりますね。イェーガーズや私について、沈黙を守るか。それとも、自分が死ぬことになったとしても情報を仲間に伝えるか」
「俺がその程度の脅しで屈すると思ったのかよ。なめんなよ……!」

タツミがすごんで見せる様子にアリィは肩をすくめてそれに答える。

「人間、死ぬのは惜しいものです。私は死にたくない。ずっとこの気持ちを抱えて今を生きています。だからきっと、あなたもそうなると思いますよ?」

完全になめられている。
タツミはそう思うと悔しくてまた怒鳴り返したくなったが、ブラートの言葉が頭をよぎる。
熱くなるな。冷静に物事を見極めろ。
そうだ、こいつは自分が情報を話すことはないと頭から思い込んでいる。だったらそのまま思わせておいてやろう。
自分は必ずここを脱出して仲間に伝える。イェーガーズのことも、そして迂闊にも今目の前で使って見せた帝具のことも、持ち主であるアリィのことも。

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