第14話 だって、私は死にたくない
彼女はもう、他の人間がどうなろうと構わないと思っている。
さらにタツミが聞くことはなかったが、アリィにはまだ革命軍に参加することを拒否する理由がある。
彼女はそもそも……革命をよしとすら、思っていない。
タツミに「間違いだとは言わない」と言ったのはあくまで人を救おうとすることを指すのであって、革命そのものを間違いだとしていないわけではないのである。
だから彼女はタツミの誘いを拒絶する。
イルサネリアに適合した彼女が……
「命がけで戦う戦士や兵士では適合できない帝具」に適合した彼女が、他人のために命をかけるようなことを、するはずがなかった。
「私は、死にたくない」
ただそれだけを言い残したアリィを前に、タツミは今度こそ閉口する。
革命軍の側につくよう説得できると思った自分は間違っていた。
エスデスのほうがまだ可能性があったのだと今なら思う。
自分の命のためならどれだけの命が失われてもいいと、アリィは本気で思っているのだ。
アリィは、説得できるできないかという以前に――人として壊れている。
「お聞きしたいことはそれだけですか?」
タツミからの返事はない。
アリィはタツミに一礼すると、その部屋から立ち去った。
翌日の午後。
アリィの元に、タツミが逃げたという一報が入った。
フェイクマウンテンに狩りに出かけた際、一緒にいたウェイブの隙を突いて逃げ出したのだという。
さらにウェイブはインクルシオをつけたナイトレイドと遭遇、これをとり逃したそうだ。
ウェイブに対するエスデスの怒りはアリィが即逃げ出すほどにひどかった。
ウェイブに拷問を与えた末、今度失態があれば自ら罰を与えると言い渡すほどに。恋人に逃げられただけではなくナイトレイドを取り逃すとは情けない、と彼女は言う。
もちろん、報告を聞いてアリィにはインクルシオの使用者がタツミだとすぐにわかった。
おそらくインクルシオを使って逃亡している最中に運悪くタツミを探していたウェイブと鉢合わせたのだろうと。
しかし彼女はそれをイェーガーズに伝えない。
やがて会議室から全員が出て行く。
ぼろぼろになったウェイブも。
それを見て笑うクロメも。
ウェイブを心配するボルスも。
微笑みつつ何か考え込む様子のランも。
黙ったまま腕を組み片手を頬に当てていたスタイリッシュも。
正義をしっかり伝えられなかったと落ち込むセリューも。
そして、いまだに苛立ちが収まらない様子のエスデスも。
アリィを残し、全員が出て行った。
「ふふっ」
会議室で一人、アリィは笑う。
種はすべてまき終わった。
後は結果を御覧あれ。
全てが、アリィの計画通りに動いていた。
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