第19話 敵の罠に飛び込んで死にたくない
話はイェーガーズが出動する前までさかのぼる。
今回の出動にも、アリィは当然ながら宮殿に残るつもりでいた。
誰が好んで戦場となりうる場所へ出向くというのか。
だが、ここでエスデスが待ったをかけてきたのである。
「アリィ。今回はお前にも出てもらうぞ」
「は?」
イェーガーズの会議室において、開口一番に言われたのはよりにもよって出撃命令。
当然アリィは異議を唱える。
「私はあくまで侍女であって、イェーガーズのメンバーではないのですが」
「だが、お前はイェーガーズのサポートを命じられているだろう? それがイェーガーズに入らない条件でもあったはずだ。ならばお前には戦場についてきてでもサポートに出る義務があるはずだ。たいていは見逃してきたが、今回はナイトレイドが出てくる決戦だ。イルサネリアという強力な戦力を見逃すつもりは私にはないぞ」
ぐ、とアリィが言葉に詰まる。
確かに大臣は言っていた。「部隊に入れとは言わないが、特殊警察における侍女として働いてほしい」「エスデス将軍にもこの条件で納得させた」と。
だが彼女としては何としても回避したいところ。
「私はあくまで、”侍女”として働くはず。つまり宮殿内の仕事でしかないのでは?」
「違うな。侍女が働くのは宮殿だけではないだろう? 私たちは何も常に野外活動ばかりというわけでもないんだ。キョロクに着いても侍女の仕事がないといえるか?」
「そもそも戦力として数えるのが間違っていると思うのですが」
「ああそうだ。だからあくまで戦場に出ろとだけ言っているんだ。お前から前線に立てと言いたいところだがさすがにそれは何を言っても無理だろう。しかしそれなら後方で補助をしろと言っている。お前のほうに敵が来た時だけ蹴散らせ。不利なら退却したっていい。特攻しろと言っているわけではないしお前を殺そうと思っているわけでもない」
結局エスデスを説得することはできず、さらに侍女としての最低限の務めを果たさないならメンバーとして正式に活動しろとまで言われた。
さすがにそれだけは避けたい。
結果、アリィは折れるしかなかったのである。
出動する前、アリィは皇帝の昼食を給仕する際、自分がエスデスたちとともにロマリー街道、そしてキョロクへ向かうことを伝えていた。
アリィが危険な場所についてくことを承諾したと聞いて、皇帝もオネストもたいそう驚いた。
しかし、もちろんアリィがただ現状をよしとするはずもなく。
「もちろん可能ならば行きたくないのですがね。しかし今すぐに私がどうこうできる問題では残念ながらなさそうです。ですが、帰ってきた後は」
「えぇ、わかっております。先ほどの件、考慮しておきます」
「うむ。エスデス将軍なら失敗はないとは思うが、万一もある。余はアリィの味方だからな、任せておくがいい」
ただ、と皇帝はアリィを手招きする。
なんだろう、と内心では首をかしげつつもアリィは彼のもとに近づく。
皇帝の横にアリィが立つと、彼はおそるおそるアリィの両手に自分の両手を伸ばし、ゆっくりとその手を包み込んだ。
「アリィ。余は、帝都で待っておるからな」
「はい」
「必ず、無事に帰ってくるのだぞ。余との約束だぞ」
「……はい」
不安げに揺れる少年の目に、侍女は穏やかに微笑んで見せた。
[9]前 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:2/4
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク