第20話 罠にはめられても死にたくない
動かないチェルシーの首元に、ナイフがつきつけられている。
彼女を人質にしたのか、とナジェンダは歯噛みする。
罠にかけたと思ったはずが……逆に罠にはめられた。
「降伏するなら、彼女は解放してあげますが?」
「何を言うんですかアリィさん! 悪は一人残らず」
「セリューさん」
思わず声を張り上げたセリューだったが、急に底冷えのするような声で名前を呼ばれ身がすくむ。
先ほどまでの凶悪な顔が素に戻ってしまうまでに。
「邪魔、しないでくださいね?」
「……はい」
コロも僅かに震えている。
さて、とアリィはナイトレイドに向き直ると話を戻す。
「先ほどの提案ですが、どうなさいます? 大事な仲間でしょう?」
迷うようなメンバーの視線が、ボスであるナジェンダに向けられる。
ナジェンダだって苦しい。助けられるものなら助けたい。だが、ここで全員捕まってしまえば革命の可能性は一気に潰えてしまう。
それだけは……それだけは、認められない。
「……断る。我々全員が命を賭けて、死を覚悟してこの場にいる! 民のために革命を成功させるのは、チェルシー含め全員の意思だ! お前のように死におびえるやつらではない!!」
タツミからもたらされた唯一の情報。
それは、アリィが何よりも死を恐れているということ。むしろアリィとしても知ってほしいが故にあえて伝えることができるようにした情報だ。
「そうですか」
一触即発の空気。
全員が、これからの戦いにむけて緊張感を感じ、そして、
「ああ、よかった。だったら彼女がもう死んでいても問題ありませんね」
ナイトレイド全員が、硬直した。
「なに、を」
「おめでとうナイトレイド。あなたたちは晴れて、理念のためなら仲間を見捨てる存在となった。これが、あなたたちの望んだ、結末です」
首に巻いていた腕をほどくと、そのままアリィはどん、と彼女の体をエアマンタから突き落とした。
落ちていく。
落ちていく。
目を見開いたままのチェルシーの体が落ちていく姿が、タツミにはまるでスローモーションのようにうつっていた。
「悪にふさわしい末路だな……」
セリューが腕を組みながら、暗い目で見つめる。
「私は……死ぬわけにはいかない」
ボルスが、決意をこめた声と共に自らの帝具を握る。
「言ってなかったねお姉ちゃん」
クロメはデスタグールの腕の中で笑う。
「殺し合いはもう……始まってるんだよね……♪」
ナジェンダは怒りで歯を食いしばる
(チェルシー……お前の死に、今見せられた光景に怒りを覚えるのは、アリィを殺さなくてはならないと思うのは)
『みんな甘いんじゃない? 死んだ人のことをひきずるなんて』
『アリィを標的? いやいや、やめておいた方がいいって。どう考えても放置しておいた方が安全だって』
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