ハーメルン
侍女のアリィは死にたくない
第23話 殺してでも死にたくない

死相伝染イルサネリア。この帝具には奥の手が存在する。
発動条件は単純だが、その条件は少なくとも使用者が自ら整えることはない。

条件は……「イルサネリアの能力では対処できない死が迫ること」。

もちろん、ここで言う能力というのは死相発症だけにとどまらず、危機察知能力も該当する。通常イルサネリアによって得られる力を全て費やしても避けられない死が迫ることで奥の手の発動条件は満たされる。
対象となる死は何も感染していない相手からの攻撃だけではない。落盤といった事故や無生物による攻撃も同様だ。

そのような死が迫ってもなお、「生き残る」ための奥の手。
それは――





「■■■■■!!」
「なっ」

それは突然のことだった。
パンプキンの銃撃が迫ったアリィが突然瘴気に包まれ、そして空中を移動した。
これにより、決死の一撃はあっさりと回避されてしまう。
難敵と考えていたアリィを倒せると思ったが、その希望があっさり潰えただけにナイトレイドは愕然とした表情になる。
特にマインのショックは大きい。

「なによ……あれ……」

瘴気をあたりに撒き散らして見せた姿は、それまでのアリィとは一部が大きく異なっていた。
顔の左半分は黒い瘴気に覆われ、目があるであろう位置には赤い光が輝いている。
背中には翼が生えており、これが彼女の空中移動を可能にしていた。
そして両手は……肘まである黒い骨のような手甲に覆われ、鋭い爪が伸びている。

ありていに言えば、彼女の体の一部が危険種と混じりあったような……そのような姿をしていた。

「■■■!」

そして吼えたアリィは固まったマインにむかって飛ぶと――

「マイン!!」
「八尺瓊の勾玉!!」

彼女の体に黒く巨大な爪を振り下ろした。
幸いにも奥の手を発動していたスサノオが高速移動の技を使ったことにより、彼女の体が分断されるという最悪の事態は回避する。
しかし完全によけることはできず、右腕には深い傷が刻まれた。
腕の傷が治るまではパンプキンを今までのように扱うことはできないだろう。

さらに彼女が撒き散らす瘴気にも飲み込まれ、感染は避けられない。
奥の手を発動した状態のアリィは、瘴気を通常以上に振りまいており、すでに辺りを覆い始めていた。

「ぐっ……」
「スサノオ! マインを安全なところに離脱させろ!」
「わかった!」

ナジェンダの咄嗟の指示により、奥の手が解除されたスサノオはマインとパンプキンを抱え戦線を離脱する。
しかしせっかく手が空いた戦力がいなくなったことにより、膠着状態を脱出することが困難になってしまった。
ナイトレイドが不利なのは、以前変わらない。

(アリィは……!?)

マインを逃がすことはできたが豹変したアリィが襲ってくるかもしれない。
戦えるのは自分しかいないと構えたナジェンダだが、現実は違った。

「なに……?」

マインを攻撃した後、地面に降りたアリィからはそれまでの変化が解除されていた。
顔も、翼も、両手の爪も全てが瘴気となって消えていく。
ぜー、はー、と息を切らせたアリィは体を震わせながらもなんとか立っていた。

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