ハーメルン
侍女のアリィは死にたくない
第3話 襲撃されて死にたくない

「がああああ!?」

痛みに叫ぶレオーネ。彼女は今、激しく取り乱していた。
傷ついただけならここまではならない。
しかし、今回は違う。気づかれないはずの相手に、奇襲が気づかれた。
気が付いたら、自分で自分の手をねじ切っていた。

要するに――わけがわからない。

それでもレオーネはプロだった。混乱しながらも血を流す腕の筋肉を引き締め、簡易ながらも止血をする。
彼女の奥の手、「獅子は死なず」と仲間の帝具を組み合わせれば腕はくっつく。

「お父様を殺したのはあなたですね。私も殺すのですか?」

そうだ、と叫びたくなる。
しかし第六感が……ライオネルの力で半ば超能力の域にまで引き上げられた第六感が全力で警報を鳴らしていた。

殺意を見せれば、自分が死ぬ、と。

「……さぁてね」

選んだのは、無回答。
殺意を見せない、いや考えない。しかしじりじりと移動はする。
いつでも、状況に応じて行動できるように。

「そうですか。私は怖いです。逃げたいですけど逃げたほうが危険な気がします」

目の前の少女は、濁った目を変わらず向けている。
正直、レオーネが警戒しているのは彼女の目も理由のひとつではある。

彼女の目は見たことがある。何度も何度も、今まで殺してきたやつが最後に向けてきた目。
それは、死への恐怖。アリィの目は何を経験したらそこまで濁るのかと思うほどの恐怖で淀んでいる。

だがそれ以上に、レオーネを警戒させるものがあった。
それは彼女から溢れているような……黒い瘴気。
うっすらと、しかし確実に彼女の周りに瘴気が発生していた。いや、本当はもっと前からあったのかもしれない。ただ薄くて、目に見えなかっただけで。

それが目に見えるほど濃くなっている。これはヤバイ。

レオーネ同様、彼女もゆっくりと移動していた。無理もないとレオーネは思う。
彼女だって逃げたいのだろう。嘘はついていないのだ。

(!)

頭の上の耳がピョコンとはねた。
注意しないとわからないような足音。ライオネルで強化された聴力と嗅覚で警戒してようやくわかるほどの気配の殺し方。
しかも聞き覚えがある、まず間違いなく仲間の一人――アカメ。

彼女が、すぐそばに近づいてきている。
彼女の帝具は一斬必殺を二つ名とする妖刀、村雨。いくら得体のしれないアリィであろうと斬られれば死ぬだろう。
扉を隔ててアリィの背後に潜んでいる。レオーネはそれをサポートすればいい。

(なのになんだ、この感じ!)

頭の中の警報が止まらない。むしろ強まった。
それと同時にアカメが刀を構えたのがわかった。もう、レオーネは待っていられない。

「やめろアカメ! ここから離れろおおおおお!!」
「なっ!?」

驚いたのはアカメだ。
お互いに暗殺者としての腕は認めている。だからこそわかるはずだ、ここで標的の背後に仲間がいるとわかるような声を上げるのは愚策でしかないと。

だがレオーネはわかっていながらもやった。
レオーネとしてはやらざるを得なかったのだ。自分がアリィに奇襲を仕掛けた時、自分がどうなったのか。覚えていない彼女ではない。

(もしアカメが村雨で私と同じなにかをされたら……! 自分で自分を村雨で斬ることもありえる!)

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/3

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析