ハーメルン
侍女のアリィは死にたくない
第4話 宮殿に来たけど死にたくない

ナイトレイドのサンディス邸襲撃より数日後。
帝都警備隊からの事情聴取や死んだ両親の遺産整理などで忙しかったアリィは宮殿に来ていた。
というのも、今日より侍女として働く事になったのだ。
くわえて、自らの帝具……死相伝染イルサネリアについて皇帝に報告することを命じられていた。

今までずっと失敗作だとされ記録になかった帝具が現れたとなれば当然の話ではあるが。
しかし、手放すのはいやだ。アリィはそう考えていた。
なぜなら、この帝具は自分を生かしてくれるから。ナイトレイドの襲撃ではっきりわかった。

襲撃者がナイトレイドだとわかったのは取調べのときである。
襲撃者の一人が「アカメ」と呼ばれていたことを話したときに手配書を見せられ、それがアカメと呼ばれた人物と相違ないと確認した。
そこではじめて知ったのだ。自分を狙ったのが「ナイトレイド」と呼ばれる、今もっとも危険視されている殺し屋集団なのだと。

「いやですねぇ。死にたくないですねぇ」

思わず独り言がもれる。
間違いなく、イルサネリアがなければ死んでいた。
しかしナイトレイドを退けたということは、彼らにとってアリィは油断できない敵と認識されてしまったということ。
加えて、そのことも皇帝陛下の前で話すよう命令がきたとなれば憂鬱でしかない。

(帝具使いだから前線に出すとか言われたら困るんですよね)

なぜなら、死にたくないから。
もともと侍女として働く用意が進められていたため、これ幸いとばかりにその話をごり押ししたのである。用意を手伝ってくれていた貴族には感謝である。
もっとも、その貴族もアリィが忙しい間に殺されてしまったのだが。
なぜアリィの家がその貴族と親しかったのかというと……遠い血縁関係があったということもあるが、“趣味”があったからという理由もある。娘のアリアなどは喜色満面で人の虐げ方を紹介していたものだ。

そして、それがナイトレイドの目にとまり殺害されたということだ。
アリィのような幸運は、彼らには訪れなかった。

「あぁ、本当に。死ななくてよかったです」

その後。ついにアリィは、皇帝への謁見に臨むことになる。





「アリィ・エルアーデ・サンディス。本日よりお世話になります」
「うむ。顔をあげてよいぞ!」

皇帝陛下は、幼い少年だった。
聞いていた通りだが……予想以上に子供だった。見た目も、雰囲気も。
その横でクッチャクッチャと肉を噛む腹の出た巨漢が前に出る。

「いやぁ、聞きましたぞ? ナイトレイドを退けたとか。実に頼もしいですなあ」

ふっふっふと笑う男に内心アリィは舌打ちをする。
目の前の男はオネスト大臣。皇帝から信頼を得てその座に就いた切れ者。さらに皇帝を傀儡とし、悪政をつくす帝都腐敗の根源ともいえる存在である。

しかし、アリィにとってこの大臣が腐敗政治を行う存在であることはさほど重要ではない。その腐敗政治の悪影響が自分に来なければそれでいい。
アリィが問題に思ったのは別のことである。すなわち、先ほどの大臣の言葉。
「ナイトレイドを退けた」……これはそこらの一兵卒では到底なしえないことである。ましてや一人で。ましてや複数人を相手に。
だがアリィとしては困るのだ。大きな兵力と扱われても困る。

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