ハーメルン
侍女のアリィは死にたくない
第4話 宮殿に来たけど死にたくない

なぜならば――

「僭越ながら。私はあくまで、死におびえる、侍女がやっとの女でございます。勇猛果敢な兵士の方々と肩を並べることはできませんでしょう」

アリィは、死にたくない。
戦いを仕事とする兵士にされては困るのだ。だから婉曲的に、「自分は兵士になる気はない」と断って見せた。

(ほう……頭は回るようですねぇ)

オネストは新しく来た人間が手駒にできるか。それを見極めようとしていた。
新たな帝具……それも記録に残らなかったもの。まず革命軍がこの帝具について情報を持っていることはないだろう。もし自分たちの側に引き込めればそれは素晴らしいアドバンテージになる。ナイトレイドを退けたという実績は十分なもの。

しかし自分の敵になるようならさっさと処分したほうがいい。
だからこそ、彼女を見極める必要があったのだ。

(加えて見た目もいい。若い。使えそうなら陛下の側に置くのもアリですな)

皇帝の側とはつまり、自分の側でもあるのだが。
しかし、強力な力を持っているようだがどうやら戦いは嫌だという。
ならばもう少しつついてみるかと、オネストは口を開いた。

「しかしですなぁ。貴重な帝具使い。遊ばせておくわけにもいかないのですよ。最近は革命軍やナイトレイドといった邪魔者が多いのはあなただってご存知でしょう、ねぇ?」

目の前の女はつい最近ナイトレイドに襲われたばかり。オネストの言葉には自然と重みが出る。そして決して無理なことは言っていない。あくまで正論で攻めたのである。

「仰ることはごもっともです、ですが、私は争いの場に出ることは嫌なのです。死にたくありませんから。そしてこのような私だからこそ、イルサネリアは適合したのです」
「ほう。そういえば、あなたの帝具についても話を聞きたかったところです。聞かせてもらえますかな?」

ナイトレイドを撃退する帝具の力。オネストとしてはぜひ聞いておきたい。
アリィとしても、侍女として皇帝に仕える以上情報まで隠し通せるとは思っていなかった。それに、イルサネリアの力はけっして対策がたてられるようなものではない。
だから情報を開示することに抵抗はなかったのである。

「はい。まず帝具の力から申し上げます。イルサネリアの能力は、一言で申し上げますと――」





アリィが退出した後、謁見の間は異様な沈黙に包まれていた。
オネストとしても、どうしたものかと頭を抱えていた。

「どうしたのだ、大臣? アリィに何か問題でもあったか?」
「いえまあ、多少は」
「しかし、アリィに対して悪意がなければそれでいいのだろう?」

アリィからは実に有用な話が聞けたが、オネストにとって困ることはいくつかあった。
まず一つ……死相伝染イルサネリアは“オンオフが効かない”ということ。
つまりそれを聞かされて初めて、この部屋にいた全員が「既にイルサネリアが発する瘴気に感染(・・)している」ことを知らされたのである。
だがアリィの話によれば、アリィに悪意がなければ問題はないという。
――そう、アリィに、悪意さえ持たなければ。

(つまり彼女に対し害するようなことを考えたら死ぬかもしれない、とは……)

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