ハーメルン
侍女のアリィは死にたくない
第5話 侍女として働くから死にたくない

「うむ、来たか!」
「おはようございます、皇帝陛下。オネスト大臣」

オネストからアリィに伝えられた役職は、皇帝付き侍女という新入りの侍女に対しては異例すぎるものであった。
しかし、帝具使いである侍女というのがそもそも異例である。
事情を知った古参の侍女からも、護衛としての役割があるのだろうと納得され不満は起きていない。
むしろ、オネスト大臣がたいてい皇帝と一緒なのでいろいろな意味で皇帝付き侍女、というのは危険視されているのが実状である。

「本日の朝食になります。どうぞ」
「ぬふふ、楽しみですねぇ。やはり一日の始まりはしっかり食べませんとな」

彼女の仕事は、朝食の給仕から始まる。
大臣の言葉に対し、いつも食べているじゃないか、という発言はもちろんしない。
危機意識の高いアリィは発言にも常に気を使っている。頭が切れる大臣の前では特にだ。
下手に発言して失言などと扱われたくはない。

途中、杯が空になれば飲み物を注ぐ。
皇帝には果物のジュース。大臣にはワイン。
朝から酒を飲むのはいかがなものとは思うが、大臣は平気そうに飲んでいる。
業務に差し支えないなら自分から言うこともないか、とアリィは発言をおしとどめた。

「時にアリィ殿は、家のほうの仕事も継がれたとか?」

大臣がふと食事の手を止めて、待機するアリィに話をふった。

「殿など、私には不要かと思いますが」
「いえいえ、あなたも貴族なのですからねぇ。侍女もしながら仕事のほうも継ぐとなると、私としては無下にもできないのですよ。忙しいと思いますがねえ」
「おっしゃる通り、私は一部の業務こそ引き継ぎましたが……私が手放すのを惜しんだだけです。侍女としての仕事はまっとうさせていただきますし、父が手掛けたものの一部にしかすぎませんので大きな負担ではございません」

そうですか、と呟いて大臣はまた食事に戻る。
本来、アリィとしては親の仕事など継ぐつもりはなかった。侍女として過ごすのなら宮殿住まいになるだろうから屋敷を手放すことも考えたほどだ。

しかし、書類を整理した結果、一つだけアリィの興味を大いに引いたものがあった。
父親のゴーザンは、せいぜい手駒として使える程度に関与しておこう、という程度しか手を出していなかったがアリィはそれをもったいないと考えた。
これは自分が生きる上でも、一つの力になりうる、と。

「なので私はさっそく今夜、屋敷の方に戻ります。行ったり来たりとせわしないですがどうぞご容赦を」
「うむ。余は侍女としてしっかり働いてくれるならいいと思うぞ! そちらも父親が手掛けた重要な業務なのであろう?」

皇帝からの承認もあり、アリィは一礼する。
食事が終わったら食器をさげ、掃除に移らなくてはならない。
二人とも食事を終えたようなので、皇帝のほうから食器を台車に移していく。当然ながら、大臣よりもその食器の数は少ない。

「あぁそうそう。ブドー大将軍に伝言をお願いします。午前中に私の執務室のほうまで来るように、と。無理であるならいつ来れるか時間を聞いておいてください」
「かしこまりました」

皇帝付き侍女、である以上こうした雑用を頼まれる時もある。
アリィは心の中に伝言含めメモすると、台車を引いて食堂から退出した。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/3

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析