第8話 ドSに目をつけられたけど死にたくない
しかしエスデスには理解できない。
力とは振るうべきものだ。力があるのに戦いを恐れるならそれは弱者の考えだ。
弱肉強食を是とするエスデスとしてはアリィをなんとしても戦えるようにしたかった。
彼女には、対ナイトレイドにあることを考えていたのだから。
「おい大臣。あの話は覚えているよな。先ほど廊下で私が頼んだことだ」
「え、えぇ。覚えてますが……いやまさか、アリィ殿を参加させる気ですか!?」
「エスデス将軍。アリィは余の侍女だぞ? あまり危ないことはさせたくないのだが」
オネストどころか皇帝まで難色を示す。
しかしエスデスは一切気にした様子もなく立ち上がるとアリィに指を突きつけた。
「この後訓練場に来い、仕事はほかの侍女にさせろ、私の名前を出せば嫌とは言わんだろう。お前の力がどれほどなのか私が手合わせしてやる。逃げるなよ」
「エスデス将軍!」
オネストが呼び止めるが、さっさと部屋を出て行ってしまう。
エスデスはそのまま訓練場へ向かうのだろう。
静まり返った食堂で、アリィはおそるおそる口を開いた。
「エスデス将軍と手合わせなんて、私死にかねないのですが」
皇帝もオネストも黙る。
二人ともアリィが戦えないことは知っている。アリィが先の出来事で生き延びたのは全て、帝具の力であってアリィの力ではないのだと。
故にアリィがエスデスと戦えるはずもなかった。
「なので私は訓練場に行く気はありませんが……構わないですよね」
「……あとでエスデス将軍には言っておきます」
搾り出すような大臣の声にアリィはにっこり微笑むと、一礼して台車を運んでいった。
エスデスとうっかり鉢合わせることがないよう、少し遠回りで。
「ねえねえ、そこのお姉さん!」
厨房に戻る途中、アリィは金髪の少年に声をかけられた。
少年は皇帝への謁見が終わったあと、主からはしばらく自由にしていいと言われていたので宮殿を散策していた。そこで、少年はアリィをみつけてしまったのである。
(うわ、あのお姉さん、とても僕の好みだ!)
言葉だけなら、微笑ましい状況かもしれない。
だが、違う。彼の本心は決して愛とか恋とかそんな微笑ましいものなんかではないのだ。
少年の名前はニャウ。エスデスに仕える三獣士の一人。
つい最近帝都に戻り、宮殿へ来たばかりの彼は、傷つけてはいけない侍女がいるなんて知らない。そんな話は聞いていない。伝えるべき主は現在訓練場で獲物を今か今かと待っている。
故にニャウは侍女なんていくらでも代わりが効く、そういうものとしか認識していなかった。
だから自分の趣味に走る。
気に入った女性の顔の生皮を生きたまま剥ぎ取ってコレクションするという、あまりに嗜虐的な趣味に。
「お姉さん、僕にその顔の皮剥がせて?」
「お断りいたします」
彼の純粋な悪意をアリィはすぐに見抜いていた。
だからすぐに、脱兎のごとく逃げ出した。
ニャウは相手がすぐさま逃げ出したことに多少面食らうものの、その顔はニヤリとゆがむ。
「その程度じゃ逃げられないよねー」
獲物を追って、少年の獣も走り出した。
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