秋山優花里の戦車道 01
月間戦車道ニュース 9月号
『黒森峰、破竹の対外試合七連勝。新体制後 未だ負けなし!』
黒森峰女学園の勢いが止まらない。
国際強化選手に指名された前隊長、西住まほ選手がドイツで行われる強化合宿に参加するため電撃的な引退をしてから一ヶ月。黒森峰は対外試合七連勝という破格の強さを誇っている。
当初は超有力選手の引退が黒森峰の戦力低下に繋がるのではと心配されていたが、全くの杞憂だった。
それどころかまほ選手ですら成し遂げられなかった、新体制下無敗という華々しい成績を残している。
ではその驚異的な強さの秘訣は何なのか。
本号では新隊長の西住みほ選手、新副隊長の逸見エリカ・カリエ選手の活躍とその能力に着目し、黒森峰女学園の黄金時代を分析していこうと思う。
さらに黒森峰の保有車両を本誌独自の視点から……
01/
自分が戦車道というものを何となく意識するようになったのは、小学校の時だったように思う。
四年生の春休み。
ドイツの戦車博物館に親に連れて行って貰った「わたし」は、その重厚な存在の虜になっていた。
たぶん初めての海外旅行ということで浮かれていたというのもあったのだろうが、照明に照らされて静かに鎮座している戦車たちは何とも言えない魅力が確かにあった。テレビで見るような縦横無尽に走り回る戦車も良かったが、こうして役目を終えてただ観客を楽しませる老兵も好きになった。
だからこそ、その年の夏休みの国内旅行で「戦車道博物館」に行きたいと親にねだったのはごく自然な流れだったし、親も親で嫌な顔一つせずにそこへ連れて行ってくれた。
人生初めての九州。火の国熊本。
西住家が出資するその豪華な施設は、幼い「わたし」の目には随分と輝いて見えた。
巨大な車両庫に並べられた戦車たちは歴戦の傷痕が残されたものもあり、「わたし」に戦車道という世界の一端を教えてくれていた。
自分が大好きな戦車を使って競うことのできるスポーツが存在するという事実が嬉しかったし、またワクワクもした。
外からしか見たことのないあの鋼鉄の怪物たちに乗り込めば、どんな景色を見ることが出来るのか夢中で想像を膨らませていた。
あまりにも「わたし」が展示物に釘付けになっているので、やや困り顔を浮かべていた両親は、集合時間だけを告げて二人して施設外の休憩所に赴いていた。
今思えば、降ってわいてきた夫婦の時間というものを大切にしたいという思惑もあったのだろう。
そんなわけで、「わたし」は一人、館内パンフレットを握りしめながらたくさんの戦車の間を練り歩いていた。
西住家の試合で活躍したのであろう、ティーガーⅠやパンター、Ⅳ号戦車に一々感動し、パンフレットの写真と毎回見比べていた。
パネルに記載された説明書きを熱心に読み、撮影許可が下りているスポットでは父親から借りたカメラで数え切れないくらいの写真を撮っていた。
ふと、そのときだったか。
灰色に塗装されたパンターG型の前で視線を感じ、徐に振り返ってみた。
見つけたのは翡翠色の瞳と、きらきらと輝く銀の髪だった。
第一印象は、自分と違って随分と女の子らしい綺麗な子だな、というもの。
身につけている服も、近くのスーパーで購入したTシャツと短パンである「わたし」とは正反対で、随分と上品なお嬢様ぽい、フリルとレースがふんだんにあしらわれた如何にも「女の子」といったものだった。
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