1.俺の名前…
「イッキ、母さんから話は聞いたぞ」
イッキはぎくりと背筋を伸ばした。叱られる。息子の気持ちを察したのか、ジョウゾウはイッキの気を落ち着かせるために、優しく微笑んだ。
「まあ、そう固くなるな。パパだって、子供のときは一回や二回ぐらい、お使いのお金を使ったことがある。しかし、今回は少々規模がでかかったな」
少々どころではない。百円や二百円ならいざ知らず、一万円を越すともなれば、家計にダメージを与える金額だと分かる。
「反省したか?」
「うん…二重の意味でね」
イッキは今日起きたことを簡潔にパパに話した。
「はっはっ! そうか、あの青年か。それにしても、興奮と後悔のあまり、肝心な物を二つも忘れるとは間抜けな話だな」
がっくりと肩を落とすイッキ。ジョウゾウは元気を出せとぽんぽんと肩を叩くと、息子の顔を覗いた。
「反省したか?」
「うん」
「もうしないか?」
「うん、こんな馬鹿なことは二度としないよ」
「じゃあ、テストで必ず良い点取ってくるか?」
最後の問いに、それはちょっと、とイッキは首を捻った。
「最後のは冗談だ。というわけで、お前にスペシャルビッグボーナスをやろう」
父親のスペシャルビックボーナスとやらを見せつけられた瞬間、イッキはあんぐりと口を開けて、絶句した。パパの右手にはメダル、左手にはメダロッチがあるからだ。
「ぱ…パパ、これは!?」
「いやー、実はな。いつも通りの道を歩いていると、突然、空から笑い声がしてな。上を見上げたが、特に怪しい物は見当たらない。で、顔を下げると、道路に光る物があった。近づいて見たら、この二つがあった。恐る恐る拾ったら、また、笑い声が聞こえた。それでな、『な、何だ? 強盗か? だとしたら、盗む相手を間違えているぞ』と言うと、その正体不明の奴は『ご安心なされ、今宵はご子息に贈り物を届けに参った。プレゼントキャンペーンで、ご子息はメタルビートル購入者二千人目となり、その祝いとして弊社からプレゼントを持って馳せ参じ参りました。
好きな方法でその二つの品をご子息にお渡しなされ。あと、これからもメダロット社の製品購入をよろしくと伝えてくだされ』と。そうして、正体不明の奴は姿を見せずに消えた」
正直、パパが嘘をついているのではないかと疑った。しかし、パパが持っているメダルは間違いなくカブトメダル。クワガタメダルとは違い、カブトメダルは幼虫が右のほうを向いている。
パパが息子のプレゼントとして、イッキがメダロットをする上で不足していたメダルとメダロッチの両方を買ってきた。更にそのメダルは、メタルビートルと相性ばっちりのカブトメダル。偶然にしては出来すぎている。
因みにメダロッチとは、メダロットに指示を送る時計のような形をした機械のことである。
こんなことを知っている人物は一人しか思い浮かばないが、その考えは捨てた。その人物の普段の行動や姿勢を考えると、こんなことをするとは到底考えられない。
「怪しいとは思ったが、もう疲れているし、一旦、帰宅してから確認しようと思ったら、ママからお前がメダロットを購入をしたことを聞いてな。大丈夫だろうという結論に至った。というわけでだ、イッキ。ほら、試しにメダルを装着してみなさい」
イッキはパパからメダルとメダロッチを受け取った。軽いはずなのに、ずしりとした重みが伝わってくる。
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