34.記憶
マルガリータのメタビーは動けなかった。森にある花畑の奥にマルガリータがいた。白い花の前で佇んでた。近寄ろうとしたら、突如、巨大な黒い塊が現れて、メタビーを叩きつけた。
メダトロはメダフォースを扱えるが、直接の戦闘は弱い。見かけに反し、化物の一撃で脆くもメタビーの右腕はもげて頭が酷く傷付いた。化物の正体は近頃噂になっている熊だ。メタビーが知り得る限りでは、キエの倍以上も大きい。
マルガリータに狙いを定めた。マルガリータは金縛りにあったように動きを止め、冷や汗を流し、歯の根を震わせた。熊はゆっくり近づき、獲物を仕留めようとしたとき、間に割って入ってきた者がいた。
プース・カフェだ。プース・カフェは腕を広げ、メタビーに寄り添うマルガリータを守る為に熊に立ちはだかった。邪魔をするなと熊の吠え声が森に轟く。
*——————————————————*
イッキたちは男たちに混じり、現場へと急行した。どこからか捜索隊の一人が来て、花畑から熊の声がしたと報せた。男は次々と呼びかけ、侍女たちは村に引き返して応援を呼びに行った。イッキたちは帰れと言われたが、メタビーは断として受け付けず、自分は攻撃に向いたメダフォースを使えるのでいざという時の窮地を救える。
言い争っている暇はなく、男たちは勝手にしろとイッキとメタビーの同行を許した。
イッキの耳にも聞こえるぐらい、吠える熊の声が届いた。声を聞いただけで恐ろしかったが、槍をぐっと握り締め、懸命に男たちの後を付いた。
花畑から北へ奥。そこにいた者を見て、六人はたたらを踏んだ。熊だ。それも、身の丈三メートルもある重量級サイズだ。ゴッドエンペラーとは異なる脅威を目の当たりにして、イッキは委縮したが、槍だけは前に構えた。
熊は怒り狂っていた。熊の体にくっ付き、マルガリータに行かせまいとするもの。案山子部分が外れ、絵具が掠れてしまっているが、プース・カフェである。プース・カフェはマルガリータと怪我をしたメタビーを守る為、命懸けで熊に抵抗を試みていた。プース・カフェは叩き落とされた。足が折れる。プース・カフェは片足だけで跳んだが、またしても蠅のようにはたかれた。熊が男たちを睥睨し、マルガリータに詰め寄ろうとしたら、プース・カフェはぱっと頭に飛び乗り、壊れた両腕で何度も熊の額を叩いた。
プース・カフェは抵抗した。非力で、熊の分厚い皮に傷を与えられるはずもないのに、小さな身で抵抗し続けた。これと同じ光景を見たことがある。
このままでは、プース・カフェばかりか、マルガリータも。イッキと四人の男たちは応援が来る前に、プース・カフェに倣って攻撃をしかけようとしたがメタビーが止めた。
「死にたくなけりゃ下がってろ!」
メタビーの背中から、光る羽根が伸びていた。気のせいか、羽根は前より少し伸びているように見えた。熊はプース・カフェは打ち払い、背中を踏んづける。熊は光源の方に首を曲げた。
メタビーはメダフォースを発動した。一筋の光の筋が放たれ、熊の右肩に衝突した。熊の肩から血が噴き出した。だが、倒れなかった。メダフォースは肩口数センチを抉った。痛いことに間違いないが、それぐらいでは熊はへこたれなかった。
「メダフォースを会得したのか」
「いつものメダフォースだ。完全な威力じゃない。それに、今のままでも本気でやれば、熊を撃ち殺していた」
ボディにはメダフォースによる外傷は見当たらないが、メタビーは今の一発でエネルギーの大半を消耗していた。殺さなかったのは彼の情け故。両足で大地を踏み締め、自分はまだやれるぞと威勢を張った。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/14
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク