3.一人の日常
帰り道、セブントゥエルブが目に付いた。
このコンビニには、俺の体をイッキに売りつけた駄目店員がいる。そいつは、のべんくらりと店外で体を伸ばしていた。俺が店長なら、とっくのとうに首にしているね。
そして、俺を見たら間の抜けた声で「ん、どうも」と挨拶した。インターネットで覚えた言葉を使えば、日本オワタ。
店内を見たら、無表情に男がエロ本を立ち読みしていた。女の裸や下着の写真を見て興奮するのは、欲求不満状態だからかな。実は一度、そういう本を立ち読みしたことがある。何が面白くて分からず、あの店員に聞いてみたら、女子高生があいつを白い目で見た。さすがに、あのときはちょっとばかし悪いことをしたなと思った。
コンビニも過ぎて、次は家から歩いて五分ぐらいのところにある公園に来た。
園内には、萩野香織とその友達と思しき園児にメダロットが一体いた。そいつはカメレオンみたいな姿をしている。すると、そいつがギョロリと片目を俺に向けた。
「よう、確か『メタビーちゃん』だっけ?」
かー! 見も知らねぇ奴からメタビーちゃんと呼ばれるなんて、ママは一体どれほどの人に俺のことを話したんだ。
「そういうお前こそ、何なんだってばよ!」
メタビーはカメレオンっぽいメダロットに突っかかった。
「そう怒鳴るなってば。別に悪口の意味合いで呼んだわけじゃねぇ。俺、ナチュラルカラーっていうメダロット。見てのとおり、カメレオン型メダロットさ。俺の主人は爬虫類とかが好きなんでな。ついでに、俺は機体名称がそのまま名前になっている」
「見たことない奴だな」
「そりゃそうさ、俺はこの公園から歩いて四十分ぐらいのところに住んでいる。俺が勝手に出歩いて遊んでも、特に咎められたりはしない。名誉のために言っておくが、山彦は決していい加減な奴じゃないぞ。ちょっと、マイペース過ぎる一面はあるが」
俺と奴が話していると、香織ちゃんが間に入ってきた。
「ねぇ、メタビーちゃん。一緒に砂の山作って、トンネルも開けよう」
ソルティが香織に擦り寄る。人懐っこいソルティは、見知っている人間を見ると、遊んでもらいたがる。俺はこいつと香織ちゃんたちと遊ぶことにした。たまにゃ、ガキっぽく我を忘れることも必要さ。まあ、俺まだ一歳にすらなっていないけど。
よしよし、兄ちゃんがリードしてやろう。そう思っていたのに、いつの間にか夢中に砂山を作り、トンネルを掘っていた。しっかりと泥で補強して、完成。我ながら、良い出来だ。ナチュラルカラーのことを香織ちゃんはナツちゃんと呼んでいるので、俺もそう呼ぶことにした。
「たまには子供になってみるもんだな、ナツ」
「ああ。それにしても、子供のようにはしゃいでいるお前の姿。結構、微笑ましかったぞ」
事実だから、怒鳴れない。ナツもはしゃいではいたが、怪しい奴がいないか周囲の様子を見ていたりした。こういう、寛容でちょっと冷静に物事を見られる一面は、俺に欠けているところだな。
俺は香織ちゃんたちとナツに別れを告げた。
急いで帰宅して、偽装工作に取り掛かった。ボロ雑巾で、俺は自分とソルティの体に付着する泥を拭いた。
拭き終わる頃、聞き慣れた我が家の車のエンジン音が近づく。危なかった、この家では自分を含め、ママには頭が上がらない。泥で汚れた姿を見られたら、どう叱られるか知れたものではない。
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