5.校内ロボトル大会【後編】
ぶるぶる。全身と股間に寒気が。尿意をもよおしたイッキは、ママたちに待たなくていいから先に帰るよう言った。
「寄り道せずに帰ってくるのよ」
「分かってるよ、ママ!」
イッキは一目散にトイレへと向かった。
思ったとおり、トイレはどこの階も混雑していた。股で股間にある物を抑えつけて、イッキは数分間トイレを我慢した。
カシャ、カシャと、機械的な歩調。尻尾と手足が電気コードの接続部のような形をしており、真っ赤なぶかぶかなスカートと服を着たような体、頭に猫耳を付けたネコ型メダロットのペッパーキャットが男子トイレにやってきた。主人である女の子でも探しているのだろうと、気にかける者はいなかった。
「ブルースドッグと鋼太夫倒したぐらいでいい気になるにゃ。私はあいつらとは比べ物にならない。あんたはあのカブトムシの命日でも待っておくことだにゃ」
イッキにさり気無く近寄ったペッパーキャットは、イッキを小声で脅した。そのペッパーキャットの脅しを聞いて、イッキは青ざめ辛そうな表情をした。だが、それは限界まで近づいている辛さであり、そのメダロットの脅しの台詞はとんと聞こえてなかった。
そのメダロットはそのことに気が付かず、自分の台詞で相手がびびっていると勘違いして、満足した様子で去って行った。
正門を出てすぐのところに、スクリューズの三人が立っていた。キクヒメが例のペッパーキャットに話しかけた。
「セリーニャ、イッキとあの虫の様子はどうだった?」
「カブトの奴はいなかったけど、イッキにはバッチリ。青ざめた顔で身を震わせていただにゃ」
このペッパーキャットはキクヒメの愛機で、名前はセリーニャ。
「へっ! イッキの奴、明日、自分がどういう目に遭うか分かっているらしいな」とイワノイ。
「ああ。泥塗れにしてやろう」とカガミヤマ。
「あたいらを舐めたらどういう目に遭うか。あいつの虫の体にしっかりと刻んでやりな、セリーニャ」
そして、スクリューズは既に勝利したかのように高笑いした。
その頃、用を済ましたイッキは児童玄関で待つメタビーと会った。
「気分は?」
「死ぬかと思ったけど、何とか間に合ったよ。でも、辛かったな。人を押し倒してでも行こうとしたら、僕の心を読んだのかな? 赤いボディのメダロットが『待っておくことだにゃ』と注意したんだ。おかげで、間違いを犯さずに済んだよ」
「赤いボディのメダロットといえば、さっきこの近くを通ったな。猫が見栄張って服着たような感じのが」
「猫……ペッパーキャットか。まあ、あのメダロットを持っているのは他にもいるし。僕の間違いを押し止めてくれるような心優しいメダロットが、まかり間違ってもあいつらのメダロットということは無いな」
イッキとメタビーは人混みに揉まれながら、ゆっくりと歩いてくれていた四人を見つけて合流した。スクリューズはほくそ笑み、イッキの気持ち爽やか。双方、互いの思惑に全く気付かず。知らぬが仏とはこのこと。
帰宅すると、ちょうどパパも帰ってきた。
夕食の時間帯、イッキとチドリママはパパに試合模様をこと細かく話した。特に、イワノイと対戦したときの心境と戦い方を伝えると、ジョウゾウはいたく感心した。
「ほう、お前がそんなことを考えて戦ったとはな。中々やるようになったな、イッキ」
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