7.おどろ山探索記二(少年と少女)
「ティンペットまで傷ついておるのう。わしも忙しいからな。そんな不安そうな顔するな。今日の夜にはちゃんと終わらせておくから、日を改めて迎えにきなさい」
明日か。今になってイッキは少々不安になった。両親の前に、あのメダロットが僕を受け入れてくれるかどうかが問題だ。だが、引き下がる気はない。こうなった以上、何としてでも彼、彼女を迎え入れたい。ただの偽善かもしれないけど。
「イッキ、どうして落ち込んでいるの?」
アリカが心配そうに僕の顔を覗いていた。自分でも気付かないうちに、顔を下に向けていたようだ。
「何でもないよ」
「あのメダロットのことでしょう」
イッキは思わず背筋を伸ばした。それを見て、アリカはやっぱりと言った。
「今更、悩んだところでしょうがないでしょう。あんた一人で説得が無理なら、私も拾うのを協力したちゃったし。いざというときは、それなりに手伝ってあげる」
アリカのこういう積極的な面はときとして疎ましくも思うが、こういうときには頼り甲斐がある。ただ、今回のことは自分が撒いた火種。イッキは出来る限りアリカの手を借りないよう心がけた。
四人はおどろ山まで来て、いざ入山しようとしたら、管理事務所のおじさんに止められた。
「駄目駄目。せめて、大人の人も連れてきなさい」
「昨日までは入って良かったのに、どうして!?」
「そうだ、そうだ! それに、幽霊なんざ俺がとっちめてやらぁ」
アリカとメタビーがおじさんに聞いた。
「いやな。実は昨日、小学生ぐらいの女の子が被害に遭ったんだ。昼間から幽霊なんて出やしないだろうが、安全の為、急遽、ゴールデンウィークいっぱいまでは高校生以下は保護者同伴じゃなきゃ入れないことになった。というわけで、今度から保護者と一緒に来てくれ」
イッキはアリカが噛み付くと思ったが、意外にもアリカは大人しく引き下がった。おじさん一安心していたが、イッキは絶対にアリカはこの程度のことじゃ諦めないことが分かっていた。イッキはアリカに連れていかれるまま、おどろ山周囲を歩いた。アリカが足を止めた。
入山口から二キロ離れたところ、見回りの人もいなくて、辺りに人家もなく人気が無い。フェンスはよく見かける緑色のもので、上に沢山の棘が付いた鉄条網も巻かれていない。
イッキはアリカにおずおずと尋ねた。
「アリカ、まさかだけど、ここから入山する気?」
アリカは満面の笑みで答えた。
「ええ、そうよ」
「アリカちゃん、それはしていけないことじゃ…」
ブラスはアリカを止めようとしたが、アリカはもうブラスの言葉にすら耳を傾けなかった。
「ジャーナリストたる者、この程度のことで根を上げてちゃやってられないわ。仮に見つかっても、まだ子供だから、小一時間お説教されるだけで済むわ」
「僕は根を上げてほしい」
「俺もそう思う」メタビーはイッキに同意した。
「イッキとメタビーは来なくていいわ。これは、私一人の問題だから」
アリカはそう言って、フェンスを越えた。
「しょうがないわね」
ブラスはまるでわがままな妹に手を焼くお姉さんのようだ。ブラスも遅れてアリカの後を追った。
「どうする、イッキ? あの二人を追うか?」
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