ハーメルン
幼女を愛でつつ敵をくっころし天下を統一するだけの話
4話 船から蹴飛ばされた日
董卓銭とは、190年以降に董卓によって作られた貨幣を指す。
当時、後漢では五銖銭が流通しており、それを改鋳して作られた。それは余りにも小さく、軽く、薄い。そしてなによりも形はバラバラで模様も無く、まさに銅くずと呼ぶべきものであった。
悪銭は良銭を駆逐するとは言われるが、董卓銭はそれを遥かに凌駕する勢いで、後漢の貨幣経済を破壊し尽した。魏において、いわゆる良銭は全体の4%にも満たない数しかなく、96%の貨幣が悪銭化し、徴税手段が物納に代わるほどだった。
董卓がなぜそんなものを作り、そして流通させたのか? その理由は一つ。まともな貨幣を作れなかったのだ。
董卓がその貨幣を作るに当たり、問題となったのが職人の不在である。
長安は確かに前漢の首都であり、貨幣製造の為の施設こそあった。しかし、その地に貨幣を作る事が出来る職人は居ない。その技術者集団は董卓が洛陽を占拠した際に逃げ出している。
そこで董卓はある書物を参考にした。それは貨幣の作り方についての漢王朝が残した貨幣の鋳造方法を示した書である。
董卓銭は銅銭を作るにあたって必要な銅や鉄などの比率が書かれたその書を参考に作られた。問題はその書物には、貨幣を作るにあたって必要なある材料が欠けていた。
その名は鉛。
貨幣の形を安定化させるために僅かな量の鉛を加える。その過程がその書には欠けていたとされる。
銅くずに成り果てた貨幣だが、洛陽中から集めた貨幣を鋳つぶして作ったのである。それを失敗しました。で捨てるわけにもいかない。董卓は市場に貨幣を流した。
その後は、貨幣価値の大暴落が始まり。年率100000%のインフレが起こるほどの経済の崩壊が起こり田畑を持たない民は生き抜く術を失うことになった。
長々と説明をしたが結局、どういう事かといえば……
やばい、貨幣を改鋳するどころか、まともに貨幣が作れない。なんで! どうして! ちゃんと作り方を模倣したのに。焼きの温度か? 竈? なにが原因なの? どうすりゃいいんだ。誰か教えてくれ!
現代知識を持とうが持つまいが関係なく、貨幣は長安では作れないということだ。なお、後漢書曰く、その職人集団は袁術に保護されている為、都合よく現れてくれる可能性は皆無である。
通貨発行益で財政を再建しろと命令されてから十日。まったく、進展が無い。というよりも手詰まりである。しかし、それを賈駆が認めてくれるはずもない事は知っている。ただ、報告をするだけでは、いいからやれ! で終了すると思った劉表はある考えを思いつく。
(貨幣発行そのものが不利益だと思わせられれば、貨幣の改鋳自体が無くならないだろうか?)
▲▽▲▽
「単刀直入に申します。新貨幣の発行を止めませんか?」
その言葉を聞いて、賈駆は一瞬呆然とし、そして激怒した。
「地方からの税収、物資が入ってこない今、軍事力維持の為に、貨幣作って給金を払う事の何が不満なのよ!! なに? あんたも、糞儒者みたいに、貨幣は人の欲の塊だから作るだけで徳が失われるとか言うつもり!?」
「そうではありません。今、長安は孤立しており、経済圏がとても狭い。そんな中で貨幣を大量に発行すれば、直に貨幣余りになります。ただでさえ、長安の市場に回る食糧が少ないのです。治安も悪く、益州や荊州の商人も食糧を売りに来るものもごくわずかともなれば、その少ない物資が高騰するのも必然。そのわずかな食糧に、従来では信じられないような貨幣を使い、競り落としているのが現状。さらに貨幣を作っても逆に価値が下がるだけでしょう。商業復興は外交での周囲との同盟なくして進めては取り返しのつかない事になります」
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