ハーメルン
幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで
吸血鬼異変──意地と矜持と*
妖怪の山は阿鼻叫喚の戦場と化していた。
横たわるは骸、骸、骸……。これらの死体に共通することは、その全てが凄惨な状態で無造作に転がっていること、そしてその全てが妖怪の山の天狗のものであることだ。白狼天狗、烏天狗、大天狗……ありとあらゆる天狗が殺されていた。
ある死体は胸から腹にかけてを全て抉り取られ、ある死体は体の穴という穴から血を吹き出し、ある死体はグズグズと煙を上げて溶けてゆく。
これらの所業は全てたった一人の悪魔によって行われ、そして今なお現在進行形で引き起こされていた。
「止めろッ! 奴を止めろぉぉ!!」
「これ以上先には行かせるなッ!」
天狗たちは幾度も防衛線を張っては悪魔に対し抵抗を試みる。高密度の妖力弾、天狗の団扇による突風、神通力、河童製の連射火縄銃。今持てる全ての戦力を駆使して小悪魔を抑えにかかっていた。
だが瑕疵なき要塞とまで称された妖怪の山といえども、懐まで攻め込まれては防衛すらままならない。いや、それ以前に。
「えいっ」
そんな軟弱な天狗の壁など、この悪魔にはなんの意味も持たないのだから。
小悪魔の薙ぎによって前方が大爆発に包まれる。掌に魔力を重鎮させ、それを放射状に放ったのだ。煙が晴れると、そこには何も存在していなかった。今の一撃だけで十数人の天狗が消し飛んだ。
小悪魔の軽い一つ一つの動作が天狗たちにとっては必殺級。ただいたずらに死傷者が増えてゆくばかりである。
「ほらほら〜早く止めないと大将を獲っちゃいますよ〜。それっ」
「ヒギッ……」
小悪魔の蹴りによってまた一人天狗が爆散した。なんとか盾で防ごうとも、衝撃がそれすらを容易に突破してしまう。
若干Sの気がある小悪魔は一方的な蹂躙を楽しんでいた。自分を前にして絶望と恐怖に歪んだ顔を見ただけで心が躍る。良くも悪くも悪魔らしいと言える。だがそんな彼女もだんだんと飽き始めていた。
「うーん……流石に同じ味ばかりだと飽きてきますねぇ。そろそろ変わり種が欲しいところですが……っと」
右側から切りかかってきた白狼天狗の太刀を敢えて肉に食い込ませ、頭を掴む。そしてアイアンクローの要領でこめかみを締め付けた。小悪魔としては痛みに悶え苦しむ姿を期待していたのだが、白狼天狗の頭は万力で潰されたかのようにぐちゃりと潰れてしまったので「柔いですね」と面白くなさげにそこらへと投げ捨てた。
そうしてしばらくのこと小悪魔は殺戮を続けたが、いつまで経ってもパチュリーからの帰還許可が出ないのでいい加減機嫌を損ね始めていた。
というよりまず、どこまで暴れれば良いのかの指示を受けていない。今のところ好き勝手に暴れているものの、クリア条件は一体どこに設定されているのやら。
「……しょうがないですね、こうなったら山を半分ほど消し飛ばしてみましょうか。そうすれば
ここ
(
幻想郷
)
の上層部の連中も慌ててなんらかのアクションをとってくるでしょうし」
軽くそう言い放つと、小悪魔は手に魔力を溜め始める。空気が淀み、凄まじい重力が辺りを支配した。悍ましいまでに強大なそれは、遠目に見ていた天狗たちの士気を一気に刈り取った。
戦いようも、逃げようがない。
アレに、どう立ち向かえというのだ。ここまで酷な話はあるまい。
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