13『氷晶』
激しい緊張感。ナルトはチラリとサスケを振り返った。視線の先でどうにか陣形を維持しているサスケ。肩で荒く息をして、クナイを固く握りしめている。
初の実戦なのに、これだけの相手と対峙してまだ戦う気力をギリギリのところで切らしてはいない。相手との力量差をしっかり理解しているはずなのに、だ。
流石だ、とナルトは思った。
不思議な感覚だった。見下しているわけではないし、優越感を感じているわけでもない。しかし、そうやってサスケを素直に称賛できる自分自身がどこかにいた。それはかつての自分だったなら難しいことのはずだ。やはり感覚の問題なのだが。
―――いや、やっぱ調子に乗ってんのかも。ってそんなこと考えてる場合じゃねえ。
ナルトは自分を戒めた。今は他の考え事をする余裕はない。
相手は鬼人。………まずはこの霧をどうにかしなければ勝ち目はない。逃げるにせよ、戦うにせよ、どちらを選んでもこの霧隠れの術を攻略する必要がある。自分の手札で、どうにかできそうな手段がないか考える。
多重影分身はどうだろうか? 手当たり次第に空間を埋め尽くせば、可能性はあるが、分のいい賭けには思えない。なによりそれほどのチャクラの消費は避けたかった。今の自分はかつてほどのチャクラはない。過信は禁物だ。
猿飛の術もこの状態では意味がない。なにしろ水と精々小舟の足場がある程度。第三段階のチャクラ感知ができれば状況は全く違うが、生憎ナルトが習得したのは第二段階の自分のチャクラで周囲を認識するところまで。
絡め手は苦手なのだ。役に立たない術を教えた三代目に悪態を吐く。手詰まりだった。
―――どうする?
相手が船を一気に沈めてこようとしないのは、依頼主を確実に殺すためだ。自分の有利が動かないと確信しているからこその行動。ならば近付いてくる瞬間を待ち構えるのは一つの手だろう。ナルトは感覚を研ぎ澄ませた。迎撃態勢。
体の内で、九尾の嘲笑を聞いた。時間の流れがゆっくりになっていく。静止した世界で、視界に、霧とは違う黒い靄のような何かが映り込んだ。空間に墨汁を垂らしたようなそれはまるで影で象った禍々しい獣の様相だった。
【ククク、苦戦しておるようだなぁ】
―――黙っててくれ。今集中してるんだ。
黒い獣は牙を剥き出して異様な笑みを見せた。
【鎖を緩めろ。そしてワシの力を使えばいい。ワシのチャクラを、ほんの少し引き出せばよいのだ。そうすればこのような敵などに後れを取ることもない】
―――。
【他の人間を救いたいのだろう? ならば力を求めろ。何時でもワシは喜んで力を渡そう】
あの夜、九尾と対話して以来、時折このように話しかけてくるようになった。しかし対話というよりは、こうしてナルトに挑発的な言葉を投げ掛けてくるだけなのだ が。
―――悪いけど、お前を利用する気はない。
ナルトは切って捨てた。
【愚かな】
九尾は断じた。
―――なに?
【愚かだ。なにを意地を張る。お前の中にある力だ。なにを躊躇う、なにを恐れる】
―――うるせえ、あっちいってろ。
九尾のチャクラは確かに強力な力だ。だが、同時に不安定だ。都合のいい力などではないということをサスケと闘ったときにナルトは思い知った。確かに強くはなれる。それは間違いない。だが、それに頼り切ってしまえば九尾に依存することになり、己の成長はなくなる。なにより九尾と対等の立場ではなくなってしまうだろう。九尾もそれを狙っているようだった。友達になれるといったナルトの言葉を言外に否定させたがっているのだ。それに少しチャクラを増やしたところで再不斬に勝てるのなら世話はない。
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