第5話
「お元気そうでなにより、ガゼフ殿」
「そちらこそ、御活躍は耳にしているよモモン殿」
王都はガゼフ邸の一室。二人はソファーに腰掛け向かい合っていた。
「現れたと思ったら一ヶ月足らずでズーラーノーンを下し、その後も数々の依頼を達成しているアダマンタイト級の冒険者。王都でも今や毎日のように聞く噂話だ」
「いやいや、ガゼフ殿の鍛え方が良かったからですよ。事実あの一週間がなければ、苦戦したであろう場面はありましたらからね」
「あの一週間、か……」
ガゼフは思いを馳せる。一月程前の事だが、あまりにも濃すぎる期間だった為に未だ鮮明に思い出すことができた。
「まるで地獄のような日々だった」
ガゼフは言葉とは裏腹に、獣が如き獰猛な笑みを浮かべる。
『あの一週間』とは、以前にモモンガがガゼフを訪ねた直後から一週間の出来事。ただ事実を言うのならば、モモンガが近接職としての戦い方をガゼフから習った時の話だ。
―――ただし、その内容は尋常なものではない。
モモンガはガゼフに『リング・オブ・サステナンス』を貸し出し、飲食を挟まず昼夜問わずに一週間まるまる訓練を行ったのだ。その内容は過酷なもので、実戦形式で裂傷骨折多発(ガゼフのみ)のまさしく地獄のようなものだった。おかげで一夜漬けならぬ七夜漬けでモモンガは近接戦闘のなんたるかを覚えて、ガゼフが一目置けるレベルまで成長する事ができた。ちなみに大きな怪我をしてもモモンガが持っていた怪しいポーションですぐ治るので、本当に休む間もなく訓練は続いたのである。
その極悪さゆえにガゼフもレベルアップし、もてあまし気味だったある武技を極めつつある事は、余談である。
「それで、モモン殿はまた鍛練に来られたのか?」
「いえ、資金が貯まったので家を買いに来たんです」
「ああ、成る程。私の紹介があれば話もスムーズに進むでしょうな」
大きな買い物はその保証をする者が居たほうが話は早い。特に王都で家を購入しようと言うなら尚更の事だ。
「しかしエ・ランテルを拠点にされたのでは?」
「あー、確かにそのつもりだったのですが……英雄扱いに少々辟易としておりまして」
ガゼフが、思い当たる事が有るように同意する。時の人というのはいつだって様々な理想を押しつけられるものである。
「ちなみに予算どれ程お持ちですか?」
「これくらいですな」
「5本、50金貨ですか。ずいぶん稼がれましたな。それなら頭金としては十分でしょう」
「いえ、金貨じゃありませんよ」
「は?」
「白金貨です」
「はぁ!?」
ちなみに価値としては1金貨=10万円相当。10金貨=1白金貨である。片っ端から高難易度の依頼を受けまくった結果だ。さらに言うと少し人に話し辛い金稼ぎもしたのだが、別に犯罪でもないし一般市民には迷惑を掛けていないので、モモンガは公言するつもりが無かった。
「どうです? ただ寝泊まりするだけの拠点にするつもりなので、あまり人気の無い、小さな場所で良いのですが」
「ま、まあそれだけあれば一等地でも選べるでしょうし、問題はないかと。しかしというか、やはりというか……モモン殿はとんでもない御仁だな」
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