『邂逅』
「――これが、今の西部を取り巻く環境よ。大変な時期だけど改めて……ディエナへようこそ、スレイ=リアフィード。あなたの噂はこの西部にも届いているわ。いずれ、帝国を支える支柱になるだろう傑物だと……」
「はっ、恐縮でございます」
目の前で質素な玉座に腰をかける女性。珍しい青みがかった銀髪――どこか姉のソレに似ている髪に目を奪われながら、スレイはその奇妙な圧迫感に圧倒されていた。
(これが……ハウゼン家の才女。母様が言っていた、敵に回すのは得策ではない相手……)
かつて母に、尊敬できる貴族は誰かと姉と共に尋ねた事があった。いくつか上げられた名前の中で、姉よりほんの3つ年上とはいえ、当時まだ少女といってよかったリディア=ハウゼンの名が挙げられていたのは今でも覚えている。
「それほど畏まらなくてもいいわ。この会談は非公式なものだし、なによりよくこのタイミングで来てくれたわ。貴方はもちろん、貴方の母君にも直接お礼を述べたいくらいよ」
ニッコリとほほ笑むハウゼン卿の言葉にスレイは感心し、誇らしさと共に改めて頭を下げる――などという事はない。
返答しつつも頭は下げ、同時にスレイは言葉の裏の意味を取ろうとしていた。
(直接お礼……会いたいと言う訳か? 今回の派遣のタイミングの良さを問いたいのか……)
確かに、母からの命とはいえ今回の派遣は自分も疑問に思っていた。
少しは名が知れてきているとはいえ、所詮は士官学校を卒業したばかりで実戦経験のない――おまけに士官実習すら始めたばかりの小娘を、突然西部に向かわせるなど……。
(母様が、西部の詳しい情報を裏の裏まで知っていたと言う事か)
それもまた不思議ではない。もはや公然の秘密となっているが、リアフィード家には情報収集を生業とし、腕の立つ者を囲い入れている。実際に自分は目にした事はないが、彼女達ならば西部の詳しい事情や裏の動きを調べる事も出来なくはないだろう。
だが、仮に調べ上げて知っていたとしても、それならばなぜ自分を西部に送り込んだのかという疑問が出てくる。
手柄を立てさせるためなのか、実戦を経験させるためなのか、それとも違う思惑があるのか。
そしてそのことについて、目の前の美女が自分になに一つとして聞く事をしないのは、自分が母から何も知らされずにここに送られてきた事を察しているからなのだろう。
母から、そして『才女』からも、ゲームの指し手ではなく精々が少し使える駒程度にしか見られていない。そう感じた。
(シノブなら……。あの女が同じ立場なら一体どのように立ち廻るのだろうか?)
気が付けば、妙に彼女にこだわる自分がいる。それこそこの一週間ほどの旅で、シノブという存在が多彩な技術を持った旅人だという事が良く分かった。
狩猟はおろか、戦闘に使える程高い精度の投擲術、調理技術、生存技術、野草や毒物に対する知識の蓄積、剣の腕。様々な視点から見ていると思われる考察。時折見せる機転と決断力。
(あぁ、そうか)
本当ならば、剣だけ預かってさっさとこの町に来ればよかったのだ。馬を走らせればとっくにこの町に着いていたはず。それでも――貴重な時間を割いてでもシノブとの旅を望んだのは……
あの不審な女が、自分に足りない物を持っている事をどこかで分かっていたからなのだろう。
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