03:三国連合/今日の日はさようなら④
10/今日の日はさようなら
「………」
「………」
言いたいことの全てを吐き出すことが出来たんだろうか。華琳は叱られた子供のように急に静かになって、俺に撫でられるがままに俺の胸に鼻を押しつけ、すぅ……と息を吸った。
「なぁ、華琳あたっ!?」
そんな華琳に声をかけようとしたら、空気を読みなさいとばかりに額を叩かれた。
地味に痛く、目をぱちくりさせながら華琳の顔を覗こうとすると、華琳はそっぽを向いて言う。
「…………いいわよ、行ってきなさい」
「へ? 俺、まだなにも、っていてっ!?」
頭を撫でるのをやめたらまた叩かれた。
まるで拗ねた子供だ。
けど……まあ。
どうやら俺は、華琳がそんな一面を見せてくれることが思いのほか嬉しかったみたいで───
「………」
華琳がそっぽ向いているのをいいことに、顔を盛大に崩しながら、華琳の頭を撫でた。
笑う、というよりはくすぐったいのだ、こんな華琳が。
だからこう、むず痒く表情を崩した状態で華琳の頭を撫でた。
もういっそ、ぎゅうっと抱き締めたくなる衝動に駆られるが───
(出過ぎだぞ! 自重せい!)
(も……孟徳さん!)
別の次元の曹操さんに止められた気がしたのでやめておいた。
うん、落ち着け俺。
「…………すぅ……」
「……? 華琳?」
馬鹿なことを考えていたら、ふと耳に届く穏やかな呼吸。
撫でる手はそのままに、ゆっくりと様子を見ると……どうやら眠ってしまったようだった。
まあ……結構呑んだもんな。
けどこんなところで寝てたら風邪引くな……よし。酒での眠りは深いけど短いっていうし、このまま部屋に運んでやろう。
「よっ…………と」
華琳の体ががくんっと動かないように少し強く抱き締めながら、ゆっくりと体を起こしてゆく。
そうしてから一度華琳を腹の上からどかし、立ち上がるのと同時にお姫様抱っこで持ち上げる。
「………」
覇王を抱き上げる時はなんて言うんだろうか。
覇王様抱っこ? ……覇王様抱っこだな、うん。
(しっかし、寝てる顔は本当に無防備だなぁ……)
お姫様抱っこの特権。相手が寝ていれば思う存分寝顔を拝見できます。
いつも気を張っている顔が、この時だけは無邪気な少女に戻る。
……こうして、一年ぶりに見た少女の顔はとても穏やかで、こんな顔を守っていけるといいなと……やっぱり思ってしまう自分が居た。
それがいつになるのか。いつ自分は華琳を、みんなを守れるほど強くなれるのかなんてのはわからないが……この寝顔を見ることで強くなった思いは、決して嘘なんかじゃあなかった。
「はは……頑張らないとなぁ」
こんな顔を見せられれば、ますます心が奮起する。
暖かくなった心を胸に、まずは華琳の寝室へと向けて歩きだす。
華琳には許可はもらったから、あとはみんなの許可……だよな。
小突かれるくらいで済めばいいけど。
「ただいまを言ったその夜に“いってきます”を言わなきゃいけないなんて……我ながら笑えるなぁ」
でも、それも仕方ない。
ただ生きるだけじゃなく、生きる目的を見つけられた。
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