05:呉/青少年の心の葛藤①
14/御遣いさんの騒がしい日々
呉国建業での暮らしが始まった。
目まぐるしく過ぎていく時間の中で、自分に出来ることをと躍起になればなるほど、何事も上手くいかない現状がある。
そんな中でも日課は日課ということで、今日も今日とて胴着姿で修行をする。
「ふぅううんぬっ……ぉおおおおおっ!!!」
「勝ちましたっ!」
「お、おぉおっ……」
準備運動を終わらせ、まずは走りこみ。
周泰とともに城の城壁の上を三周……なのだが、一度たりとも勝てない俺がいる。
監視をしていた彼女を誘ったのがそもそもで、最初は中庭でどうだと言ったんだが……自分の仕事をほったらかしにするわけにはいかないという物凄い説得力の前に、だったら城壁をぐるりと走ろうってことに。
「それなら監視も出来るだろ?」って、少し強引な誘いに頷いてくれた周泰に感謝し、それをすでに3セット……なのだが、一度も勝てない。
速い……速いよ周泰……。
「はっ……はぁあ……速いな、周泰っ……はぁ……」
「はいっ! でも一刀様もすごいです。こんなに走ったのに、そんなに呼吸を乱してません」
「はぁ……ふぅう……うん。一応、そういった修行ばっかりしてたから。……今の場合、御遣いの力に依るところが多そうだけど」
「?」
「ああいや、なんでもないよ」
心臓に負担をかけない程度に深く呼吸をして、ゆっくり息を吐くと呼吸はもう安定していた。
いやぁ……走ったなぁ……。ここまで走ったのってどれくらいぶりだろ。
一口に城壁と言っても、その広さは学校のグラウンドの比じゃない。
恐ろしく広いし、奥に行けば行くほど低い段差があったり壁まがいの段差もあったりと、もし一周するだけにしても、性質の悪い障害物競走みたいなものを味わえる場所だった。
それを計9周。呼吸は安定させることが出来ても、結構足にきていた。
(それに比べて……)
周泰は武装状態で軽く俺に勝ってみせた。
その速さに、乱れぬ呼吸に、素直に感心する。
嫉妬なんてするはずもなく、自分に出来ないことをしてみせるその姿を、素直に凄いと思えたのだ。
……走ってる最中、周泰の刀の鞘の先に小さな車輪があることに気づいて───思わず噴き出し、呼吸を乱してしまったことは内緒だが。
少女の体躯に似合わず、長い刀を使ってるよな。斜にしないと背負えないくらいで……その長さは野太刀のそれよりもよっぽど長い。
いや、それよりも……斜にしないとってことは周泰の背よりも長いってことで───えと。抜けるのか? これ。
……深く考えないようにしよう。
「よし、じゃあ次は素振りだな。周泰はどうする?」
「はいっ、私は監視を続けますっ」
「そっか。邪魔してごめんな?」
「いえいえですっ! 一刀様はお友達ですから、またいつでもお声をかけてくださいです!」
胸にじぃんと来た……! いい子だ……!
桂花に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい……! そうすれば素直で真面目ですっごくいい子に……“華琳の前でだけ”なりつつ、俺には罠とか仕掛けるんだろなぁ。だって桂花だし。
(そう考えると、周泰はなんていい子で……!)
そんな些細な感動を胸に、拳を握り締めながら目を閉じ空を仰いでいると、周泰が動く気配。
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