05:呉/青少年の心の葛藤③
16/どれだけ煩悩を殺したところで自然体でソレをしてしまうから種馬なんだってことを自覚していない御遣い様
目の前が賑やかだった。
「あははははははは! あははははははっ! あっはっ……ぷははははははは!!」
場所は城の中庭の端の休憩所。
ここから見下ろせる中庭では、先ほどまで死闘を繰り広げた相手である白虎とパンダ(熊猫)が寝そべっている。虎を周々、熊猫を善々というらしい。
聞いてみれば呆れた話であり、どちらも呉に住まう護衛役みたいなものなのだとか。
なのに襲われたと勘違いして必死の抵抗をした俺と、“いつまでも一人で居るな、危ねぇだろうが”とばかりに俺を連れ帰ろうとした周々と善々。
少ない氣を全力で行使しての一大バトルはしばらく続き、いつしか息を乱しながらニヤリと笑う、心を許し合った僕らが居ました。……いや、俺正直泣き出しそうだったけどさ。
そんなこともあって、握手は出来なかったけど虎と熱い友情を築き上げた俺は、その背に乗って城に戻り……そこで雪蓮とばったり。現在に至る。
で、中庭から視線を戻してみれば、テーブルを挟んだ向かい側の椅子に座り、笑い転げている孫呉の王。
溜め息を吐くくらい許してくれ、頼むから。
「あっは……は、はぁあ~……! こんなに笑ったの、久しぶり……」
「……満足したかよ」
「うん」
ジト目も意に介さず、にこーと笑顔のまま頷く雪蓮。
なんかもうジト目から涙がこぼれそうだよ俺……。
「あはは、拗ねないの。うん。それにしても一刀がボロボロになりながら、周々の背中に乗って帰ってきた時は何事かと思ったわよ」
「俺も森の中でパンダと遭遇した時は何事かと思ったよ……」
気をしっかり持たなきゃ「ママーッ!」とか叫びそうだったし。
あー……思い出しただけで赤面モノだ。
「蓮華が護衛としてつけたのよ、きっと。一刀が一人で城を出ていくのを、思春が見たって言ってたし」
「甘寧が?」
「そ。まあ、その思春自体が、蓮華が向かわせた監視だったみたいだけど」
「あ、あー……」
そういえば城壁の上での鍛錬の最中、ずっと視線感じてたっけ。
でも移動を開始すると視線を感じなくなって……そっか、その時に孫権に報告しにいったのか。
「けどさ、事情を知らないままでの熊猫や虎との遭遇は心臓に悪いよ。先に話してくれてれば、あんな恐怖を味わわなくて済んだのに」
「呉では熊猫と虎が護衛にあたるから覚えておいて~って? どういう話の流れになればそんな言葉が出てくるのよ」
「………」
無理……だな。うん無理だ。
「うう……なんか納得いかない……。でも孫権にはありがとうって言っておいて……。一応、心配してくれてのことみたいだし」
「んふー、やだ♪ そういうのは自分で言わなきゃ。誠意は見せないと意味がないんでしょ?」
「む」
その通りだ。
ちゃんと相手の目を見て言わなければ、届かない誠意ってのはいっぱいある。
……うん。感謝はきちんと俺の口から届けよう。(しこたま驚いたこととか、水浴びした意味がまるでないこととかは別としても)
「わかった、孫権にはちゃんと俺から言うよ。でも、その前に───」
「その前に?」
「……はらへった……」
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