02:三国連合/ただいまを言える場所②
06/天の御遣い
念のために、もう固まっていた喉の血を川の水で洗って流す。
そうしてから森を抜けて、ゆっくりと、確実に宴の場へと戻ってゆく。
手には胴着とフランチェスカの制服が入り、木刀が刺さったバッグ。長細い布袋に包まれたそれをひと撫でして、溢れる緊張を飲み込んでゆく。
しばらく歩くと勝手口……とは言わないんだろうが、正門よりは警備が手薄な入り口兼出口へと辿り着く。
思うんだが、ここから攻められたら、あっさりと敵の侵入を許してしまうんじゃないだろうか。
町外れの小川からここまで、奇異の目はあっても特に俺を引っ捕らえようとするヤツも居ないし。
「警備体制の見直し、やったほうがいいのかな」
そう考えて、首を振る。
凪や沙和や真桜なら、俺がとやかく言うよりもよっぽど効率よくやってくれているはずだ。
だったら、と……そう考えると、これはただ華琳が“手を出すな”って言ってくれただけなのかもしれない。
「……うん。許してもらえるかはべつとしても、ちゃんと謝らないとな」
決意を新たに門の先へ。
警備兵に捕まるかなと思ったけど、警備兵は俺の侵入を黙認。
(……あ、こいつ……)
どこかしかめっ面をしたそいつには見覚えがあった。
兜を深く被っているためにわかりにくいけど、警備隊として一緒に警邏をしたこともあった。
(……そっか、まだ続けてたんだ)
久しぶりに会えたこともあって、進めていた足を横に逸らす。
小さな門の左右に立つ二人のうち、右の男へ向けて。
もう一人は新兵なのか見覚えのない男だった。多分警備の仕方とかを教えているところなんだろう。
足取り軽く、かつての仕事仲間の傍に寄ると、ギロリと睨んでくるそいつの前で、少しだけオーバーマンマスクをずらす。
「! あ、貴方はっ……!」
「しー。…………久しぶり。元気してたか?」
「はいっ、隊長もお元気そうで……!」
どうやら俺のことを覚えていてくれたらしいそいつは、一年も行方をくらましていた俺に笑顔を向けてくれる。
一方で、小さな門とはいえ距離はさすがにある左の警備兵は、難しそうな顔でこちらを睨んでいた。
「ごめんな。これからはまた、一緒に仕事が出来ると思うから」
「本当ですか!? それは楽進様や于禁様や李典様も喜びます!」
「…………?」
あれ? ちょっと違和感。
「そういえば、今の警備隊の隊長は?」
違和感をそのまま口にしてみると、目の前の男はきょとんとした顔をしてから、小さく笑みをこぼす。
「……楽進様や于禁様や李典様に言わせれば、警備隊の隊長は北郷一刀様だけであると。そしてそれは、自分らも同じ気持ちです」
「う………」
穏やかに、けど誇らしげに。
俺の目の前で、手に持った槍の石突きでドンと地面を叩き、彼は胸を張って言った。
そんな返答が嬉しくもありくすぐったくもある。
自分は確かに魏のために民のために、そして兵たちのためにも働けていたのだと。
「これで、警備隊も元通りですね。最近の警備隊は、どうも尖った印象がありましたから。こんなことを言ったら隊長代理の三人に怒られますが……自分は、隊長が居てくださったあの頃の警備隊が一番好きであります」
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