03:三国連合/今日の日はさようなら①
08/宴の席にて
-_-/魏
宴の席は賑やかだった。
かつては武を競い、別の意思を以って天下を目指した三国。
その全てが今、ひとつの場所に集まって宴を開き、同じ酒を飲み、同じ料理をつまみ、同じ話題で笑い合うなど、いったい黄巾党征伐のときに誰が予想できただろう。
方向は違えど、目指すものが同じならばと考えた者は確かに居たに違いない。
だがやり方の違いで相容れず、やはり衝突しながら互いの理想を武で示す。
そんな、今では考えられない日々が確かにあったのだ。
勝てば正しいのか、負ければ正しくないのか。
時には迷うこともあり、だが己の信念こそが泰平の道なりと豪語し、突き進む。
兵を友とし、笑顔を守りたいとだけ願い、戦場に出た者。
兵を牙とし、親より続く意思を天下に轟かすために武を振り翳した者。
兵を駒とし、力で天下を手に入れんとした者。
それぞれの意思がぶつかった過去があり、手にした天下は友でも牙でも駒でもない、絆という形で今この場所に集っていた。
たとえばと考える。
御遣いの存在無くして彼女が天下を手に入れることが出来たとして、彼女は今と同じように穏やかに笑っていられただろうかと。
力のみで手に入れたその場には、対等に話し合える小覇王の存在も、場を和やかにするであろう情の王の存在もきっとない。
孫策は暗殺され、劉備もまた彼女の前に敗れ、弱者と断ぜられ、歴史から姿を消していたことだろう。
だが、たった一人がこの大陸に降りただけで、三国の歴史は大きく変わる。
大局に抗い、存在を削ることで彼女を助け───力だけに染まり、力によって潰えるはずだった覇道の色を、少しずつ変えていった男が居た。
兵は駒ではなく、己の天下掌握を手伝ってくれる大事な存在なのだと、知らずのうちに心に刻ませた。
だからだろうか───自国の在り方も戦い方も、王の思考も誇りも知らない新兵を前線に出し、戦わせるといった歴史は生まれず───孫策もまた、暗殺されることなく現在を生きていた。
別の外史では、勝てぬのならばこの先も望めぬと判断し、どんな手段であれ勝利を願う兵をも“駒”のように扱い、頂を目指した少女。
勝てぬ戦に意味など要らぬ、我が覇道は力の中にこそあり。そう断じて突き進み、聖戦を穢されたと嘆く少女が居た。
聖戦を願うならば焦ることをせず、兵に自国の戦い方と在り方を教えるべきだったのだろう。
結果は暗殺に終わり、彼女は好敵手も、この大陸で目指した覇道の意味も失うこととなる。
が───この外史において、彼女が振り翳すものが力だけではなくなった。
それだけで、世界はこんなにも変わってゆく。
変わるたびに、御遣いの“存在”は削られてゆく。
大局から外れることが消滅に繋がるというのなら、彼という存在は実に儚いものだったと言える。
───孫策が死なずに生きる。
“大局を左右する”という意味では、相当に大きな意味を持つこの死が起こらなかったのならば、その時からすでに矛盾は生じていたのかもしれない。
天の御遣いという存在が天より降りることで、魏の王が変わったというのなら。
魏の王が変わったことで、暗殺という事態が起こらなかったというのなら。
彼の存在は、魏に降りた時点で消滅が決まっていたものだったというのだろうか。
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