017.『掌の上』【提督視点】
艦娘達が一人残らず出ていき、俺だけが残された執務室。
俺はしばらく机に突っ伏して咽び泣いていた。
明石のせいで股間は痛いし、艦娘達のせいで心も痛い。
俺が一体何をしたと言うのだ。
何で俺がこんな目に遭わねばならんのだ。
嫌だ。まだ諦めたくない。
今回、俺に提督の素質が見つかった事は、まさに千載一遇のチャンスだ。
これを逃したら、俺はもう二度と艦娘ハーレムを築き上げる事はできないだろう。
まだまだこれからが本番だ。
俺の前の勤め先で、第一印象がお互い最悪で、絶対あんな奴ありえない、なんて言っていた奴らが結婚した事もある。リア充爆発しろ。
よくよく考えてみれば、それは当然の事なのかもしれない。
思えば、過去の経験上、そんな出来事は何度もあった。
不良が雨に濡れる野良猫に傘を差している姿をたまたま見たとしよう。
普段は嫌な奴だと思っているから、「意外といいところあるじゃん」と思ってしまうわけだ。
一方で、品行方正な生徒会長がポイ捨てをしている姿をたまたま見たとしよう。
普段は真面目な人だと思っているから、「見損なった」と思われてしまうわけである。
たとえ不良が普段からポイ捨てをしていても、それは不良だから当たり前だと思われてしまう。
生徒会長が普段から野良猫に優しくしていても、それはいつもの事だと思われてしまうだけなのだ。
俺の今までの人生で学んだ事だ。
真面目な奴は損をする。
いや、そうじゃない。この経験から学んだ事は、第一印象が最悪なのは、決して悪い事ではないという事だ。
第一印象が最高である事に比べれば何倍もマシではないか。
『あの提督、視線がマジでキモいよね』『でも仕事はできるんだよね』。
『あの提督、仕事ができるよね』『でも視線がマジでキモいよね』。
二つとも同じものを比べているはずなのに、順序が違うだけで大きく意味が変わってくるのだ。
そうだ。この状況は俺にとっては向かい風では無い。むしろ追い風だと言ってもいい。
最初に俺が完璧な演技で本性を隠し、後々ボロが出るよりも、最初に感づかれておいて、後々演技でカバーしていく方が絶対に良いはずだ。
むしろ、過去の同僚のように、第一印象最悪からの結婚ならぬ、ハーレムへと繋がるかもしれない。
ポジティブに考えよう。
そう考えれば、着任初日に俺の本性を感づかれたのは僥倖ではないか。
万が一、今日で俺に対する好感度が最大になってみろ。その後は本性がバレるたびに好感度は下がる一方だ。そっちの方が最悪のパターンだ。
好感度が最低スタートなのであれば、後は上がる可能性も十分にある。
今日は俺に対する好感度が最低だから良いのだ。後々ミスをしても、あの人だからしょうがないとなるのではないか。
よし、気持ちを切り替えよう。雨は……いつかやむさ。
涙を拭いて、これからの事を考えねば。
艦娘は今頃夜戦をしながら、俺の事を全く使えないスケベ提督だと嘲っているところだろう。
つまり、ここから俺がしなければならない事は、汚名を返上し、名誉を挽回する事だ。
しっかりと鎮守府運営の知識を勉強し、艦娘達に相応しい提督を演じる事。
そうする事で提督としての威厳や権力も増し、艦娘達の警戒が解けたところでハーレムルート直行である。多分。
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