015:『Union Jack』
内部汚染を防ぐため、土足厳禁となっているパワープラント兼居住区域となっている旧食糧加工工場跡地。
その一階の大規模作業スペースでは、フェイ主導の元で先日の戦闘で活躍したバリスタの量産を行っていた。手っ取り早い防衛力の増強と言う事で、再編された防衛ラインに沿っていくつか設置しようという話だ。
さすがに動きの速い小型の個体では当てるのに苦労するだろうが、ケーシーなどの中型個体にはそれなりに効果があるのではないかと見られている。
あのデカブツクラスが出てきても、砲台と槍の数が共に揃っていれば、それなりに効果があるだろうと見られている。
「お、嬢ちゃんも作業の手伝いか?」
「うん……。これしか出来る事がないから」
ユーラシア大陸から海峡を渡り逃れてきた親子、ヒルデとヴィルマ。
その二人――特に娘のヴィルマは、あの一夜はやはり怖かったのか当初はひどく怯えていたが、今では多少持ち直したようで、こうして精力的に自警団やエンジニアの活動に手を貸してくれている。
そんなヴィルマに声をかけたのはジェドだ。
ヴィルマが行っているのは、不必要かつ一定以上の長さのパイプを、バリスタの槍に加工するために切断する個所に赤インクで目印を付けるという仕事だ。最初に渡されていた切断済みのパイプを重ねて、次々に塗料でビッと線を引いていく。
かなり長時間やっているのだろう、中々に手際は良かった。
「助かるよ、嬢ちゃん。コイツの数が揃っていれば、あのデカブツがまた来ても、もうちょい楽に倒せる」
このバリスタの量産は、そもそもジェドの案だった。どこから襲われても、2台以上のバリスタでの攻撃が可能になればあのデカブツでもどうにかなると考えたのだ。
一撃の重さによる足止め効果はジェド自身がよく知っているし、あの最後の攻撃で頑丈な皮膚を剥がしたという実績もあった。
「ジェド。キョウスケは戻ってこないの?」
「なんだ、ヴィルマはキョウスケのファンか?」
ヴィルマは、ドーバーに来た時から笑った事がない。いつも無表情で、笑うのは母親と二人きりの時だけ。
誰かが傍に来ると、途端にその笑みを引っ込めてしまう娘だ。
それはこのウィットフィールドに来てからも変わらない。
だからこそジェドは、彼女が誰かに興味を持つのならばそれは良い事だと思った。
ニッコリ笑って問いかけるジェドに、だがヴィルマは首を横に振って否定する。
「そういうんじゃない。ただ、気になって……」
「……そっか」
ジェドはヴィルマの頭に手を乗せようとして、躊躇い、そして引っ込めた。
まだ、ヴィルマとの距離感が掴めていないのだ。
「多分、そろそろ帰ってくる頃だと思うぜ?」
「そろそろ?」
「あぁ、そろそろさ」
「じゃあ、その後は?」
ヴィルマの問いにジェドは少し戸惑い、「その後?」と聞き返す。
ヴィルマは頷き、「うん、その後」と再び問う。
「ウィットフィールドに戻ってから、そのままここにいるかどうかって言う話か?」
「……うん」
少々曖昧に頷くヴィルマ。
ジェドは顎を撫でながら、そうだなぁ……と考え込み、
「長居はするかも……いや、それはねぇな。多分、すぐにでも違う所に行くと思うぜ」
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