6 小学校五年 奈良にて
奈良で麻雀が強い高校と言えば晩成高校である。
全国大会への出場を逃したのは過去35年で一度だけ。それ以外の年は県下で無双を誇っている強豪校だ。
それでも、である。多くの人には34年分の勝利の歴史よりも、たった一度の敗北の時の方が鮮烈に記憶に残るのだった。
その時晩成高校に勝利したのは、それまで無名だった阿知賀女子。優勝に導いたのは赤土晴絵、通称『阿知賀のレジェンド』。
その赤土晴絵、今は阿知賀女子を卒業して大学生になっているという。どういう訳か大学麻雀からは離れているらしいが、そのレジェンドが母校阿知賀女子で小中学生向けの麻雀教室を開いていると京太郎は小耳に挟んだ。
是非とも行ってみたいものである。
京太郎は即決したが、問題は場所だった。教室が開かれるのは阿知賀女子。名前からも分かる通り女子高である。麻雀教室は別に男子禁制ではないらしいが、開催場所から女子限定の雰囲気を感じざるを得ない。聞けば参加メンバーも全員女子であるという。そういう下地があれば、男子が招かれるということはないだろう。主宰のレジェンドも女子しかいないところに、態々男子を呼ぼうとは考えないはずだ。そういうところに一人で足を運ぶのも、気が引ける。
ならば、誰か既に参加している女子に紹介してもらうしかない。京太郎は頑張って、同じ小学校の中からその教室に通っている女子を調べ、その日のうちに見つけた女子が――
「高鴨、俺をレジェンドの教室に連れて行ってくれ」
「いーよー。じゃあ、明日の放課後ね」
穏乃はにっこりと笑って、一発OKを出した。緊張していた自分がバカみたいだった。
ともあれこれで目標は達成したも同然だ。麻雀の強い人の教室に参加できるというワクワク感を胸に、早めに床につこうとした京太郎の携帯電話が震えた。
嫌な予感がする。自分の直感を何よりも信じる京太郎にとって、悪い予感というのは予知も同然だった。
ちょっとだけ暗い気持ちで携帯電話を見ると、そこには予想通りの名前があった。メールの内容は意訳するとこうである。
『明日時間が取れました。そっちに行くから遊んでください』
予定がある、と断りのメールを入れるのは容易い。本当に予定があるのだから、嘘ではない。
通常、予定があると切り返せばそれは『貴方に時間を割くことはできない』と答えるのと同義であるが、人間誰しもが普通の対応をしてくれる訳ではない。メールの相手は京太郎の知り合いの中ではまさに、普通でない人間の筆頭格だった。そっちに行くと書いてある以上、彼女は京太郎の予定に関係なく奈良まで来るだろう。その時構わなかったとなれば、後で何をされるか分かったものではない。
メールが来た時点で、京太郎の運命は決定していた。どうやって同級生に紹介しよう。そう考えながら、返信のメールを打った。
高鴨穏乃は美少女である。
屈託のない笑顔がかわいい。表裏のない素直さがかわいい。野山を走り回る奔放さも、またかわいい。
サルとか野生児とか、他の男子の挙げる全ての要素が京太郎には魅力的に思えた。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/10
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク