THE・シュークリーム
‐side 喰奈
「いらっしゃいませ! 本日シュークリーム食べ放題となっております!」
私は、士道に教えてもらったお店の中へと一歩踏み入れる。
高校生だろうか? いや、もしかしたら中学生の赤髪の少女が、満面の笑みで私たちを出迎えた。 一瞬、士道が顔を引きつったけど、どうしてだろう。
この店には、バニラクリーム、チョコクリーム、イチゴクリーム、抹茶クリーム、葡萄クリームと、味は様々で、生地もパイとクッキー、とあるらしい。悩むよりも先に、全ての組み合わせを二人分頼んだ。
満面の笑みで受け答えする赤髪の少女は可愛らしかった。
「ああいうのが好きなの?」
「えっ!? いきなりどうしたんだよ」
「……ずっと見てたから」
私は怒りのような虚しさのような、よく分からない感情に揺れ動かされ、ろくに士道を見れなくなり、適当に店内を見渡す。
店内は広くて、客は殆どが女性同士か、カップルのように見える。私たちも、傍から見たらカップルに見えるんだろうか…
「え、あ、いや。そうじゃないんだ。ただ、ちょっと見たことあるなぁ…と」
少しの間の後、気まずそうに士道が答えた。
「そう…ふーん」
何だかちょっと腹が立ったような気がした。
「お待たせしました~! 全種類乗せです!」
その赤髪ツインテールの少女が屈託の無い笑みで、シュークリームがたんまりと山のように乗っている皿の乗ったトレイを持ってきた。それを見た途端、私の中にあった蟠りは一瞬にして霧散していった。
パイシューはTHE・王道。サクッとした食感で、噛むと中のクリームが口の中に広がる。ただ、難点もある。食べている間に反対側からクリームが出てきてしまうのだ。こればかりはどうしようもないと思ったけれど、このお店は未知の技術でそれをカバーしている。
「おいしい…っ!」
「ホントだ」
私が食べている間、士道も食べていたみたいで、右頬にチョコレートクリームをつけて、目を見開いていた。
一瞬の躊躇いの後、私は食欲に堪えきれず、士道の右頬についていたクリームをぺロリと舐めた。
「んなっ!?」
先ほど以上に目を見開いて、ポカンと口をあけている士道を横目に、私は抹茶パイシューを口に含んだ。顔が熱い。頬が火照っているのが分かる。
自分でやっといてなんだけれど、相当に恥ずかしい。いっそのこと死にたい気分だ。目の前の士道も恥ずかしいのか、顔を真赤にさせて黙々と食べていた。
周りからは楽しげな会話が流れている。けれども、私たちは平仮名一つ交わすことなく、ただ黙々と、本当に黙々と、目の前のお宝にがぶりついていくのだった。
‐side 士道
喰奈からの唐突な頬ペロをくらってからは、もう、シュークリームの味なんて分からなくなっていた。パイかクッキーかは分かるけど、抹茶かバニラかなんてもう分からない。周りにいる人は全員〈ラタトクス〉の構成員のように見える。自然なカップルや女友達といった様子で、こちらを気にすることなく、けれど、注意は払っている。
流石に最低限の判断能力は無くなっていないな、と自らで再確認して、再びシュークリームにがぶりつく。
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