ハーメルン
IS 苦難の中の力

シャワーノズルから溢れだすお湯、程よい熱さは肌に当たっては弾けて身体をゆっくりと暖めて行きながら彼女自慢のボディラインを流れていく。均整の取れた身体の曲線美は自慢の一つでもあった、やや胸が小さめという事が気になるがそれが逆にバランスの取れたラインをかたどっているので本人としては複雑な心境を生み出している。シャワールームにて一人で頭からお湯を浴び続けているセシリアは胸に手を当てながら物思いに耽っていた。

「(今日の試合、今まで、感じた事のない感覚でした……)」

IS稼働経験僅か2週間、二人目の男性IS操縦者である杉山 カミツレとの試合は彼女にとって驚きの連続であると同時にひどく充実した物であった。しかしそれは何時も勝利への確信と向上の欲求を抱き続けていた彼女にとっては初めての経験に近い物であり、勝てなかった筈なのに清々しく嬉しさすらあった。千冬からその気持ちを大切にしろと言われたが初めて経験する物に慎重な思いを募らせてしまっていた。

「杉山、カミツレ……」

同室であり今もベットで眠り続けている彼の事を思い出す。あの強い意志と覚悟、そして自分が見据えた未来へ絶対に行ってみせるという迫力は今まで彼女が出会った事がないような男性であった。あれだけの強さの理由は現実を見ているからこそだと真耶から言われた時には驚いた。彼は恐れているからこそ努力し前に進もうとしているのだ。男性IS操縦者として結果を出せなければ後ろ盾のない自分が確実に研究所に送られ全世界の男性がISを使う為と称して非人道的な毎日が待っていると。命の危険という恐怖と必死に戦いながら自分と渡りあったカミツレ、彼の事を思うと胸が熱くなってしまう。

「ミスタ・杉山……カミツレさん……」

今までの呼び方ではなく思い切って名前を言ってみると、不思議と胸が暖かくなっていた。あの人と一緒に居たい、ずっと彼の事を見ていたい……傍に居て支えてあげたいという思いがどんどん募っていく。何処か苦しい筈なのに感じる嬉しさに動揺しつつも良い形になっている唇に触れる。

「カミツレ、さん……私は、貴方の事が……」

そう形にする前にもう一度シャワーに頭から突っ込んだ、そしてある事を決めながらノズルを止めシャワールームから出て行く。新しい制服を着直すと部屋へと出る、ベットには心労と疲労で穏やかな寝息を立てている彼の姿があった、思わず彼の髪をそっと撫でてから自分の机に向かい、ノートパソコンを起動。アプリを起動させながらマイク付きのヘッドフォンを付ける、起動が終了すると連絡先をクリックする。その連絡先は―――イギリス本国。少し待つと画面に複数のウィンドウと共に本国のIS関連の政府官僚が映し出された。

『ミス・オルコット、連絡を待っていたよ。それで一体何の連絡かな』
「はい、今回連絡させていただきましたのは他でもありません。男性IS操縦者である杉山 カミツレについてです」

そう議題を提出させられた官僚達はほぅ、と言葉を漏らしながらセシリアの言葉を待った。

「本日私は男性IS操縦者である二人と対戦を行いました」
『それで結果は?』
「1勝1引き分けでした」

隠す事もなく真実を告げるとスピーカーからどよめきの声が聞こえてくる。セシリアは国内の代表候補生の中でも上から数えた方が早い実力の持ち主であり、次期国家代表にも近い人物と言われている。そんな彼女が今までIS稼働経験がない相手に引き分けたという事実は衝撃的なニュースなのだ。

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