祝勝会(鬼)
チームスピカの部室。
そこにて、ダイワスカーレットちゃんに懇願した私は匿ってもらっている。いや、匿ってもらわなければならない状況になっていた。
体操座りでガクブルと震えている私は部屋の隅にて、冷や汗を垂らしながら、息を殺していた。
目には既にハイライトが無くなっている。
「坂路…坂路…坂路…坂路…坂路…坂路…坂路…筋力トレーニング…坂路…坂路…坂路…坂路…坂路…追い込み…坂路…坂路…」
「あのぉ…アフちゃん先輩?」
ブツブツブツと呪文のように唱える私に顔を覗き込むように肩を揺すってくるダイワスカーレットちゃん。
筋トレに次ぐ筋トレ、坂路に次ぐ坂路、追い込みに次ぐ追い込み、おまけ程度に重石がつけられたまま踊り歌うウイニングライブの特訓。
さらに、それに上乗せされる地獄メニュー、これが超絶武闘派チームアンタレスが死のサイクルと化してしまった現在、私の目には希望の光は写っていなかった。
間違いなく、見た限りチームトレーナー的な立ち位置に義理母の姿を見た私が取る方法といえばこうして少しでも死期を伸ばす事くらいである。
この私の様子には、ダイワスカーレットちゃんも困惑している様子であった。
そんな中、鹿毛で跳ね毛の多い、短髪で男勝りなウマ娘は苦笑いを浮かべながらこう話をしはじめる。
「いやー…アンタレスってやっぱやべーのな、トレセンじゃ有名な話だけどさ」
そう告げるウマ娘は私の様子を見て尚更、その話が事実である事を確信しているようだった。
地獄を見たことはあるかい? そうだよ、あのアンタレスの部室が今、まさにそうなんだよ。
私は虚ろな目を苦笑いを浮かべているウマ娘へと向ける。そして、力なく笑みを浮かべると彼女にこう告げた。
「ウオッカちゃん、私の代わりに入って来ても良いよ、あの部室」
「先輩、それは流石に勘弁してください本当」
そう言って、割と本気で頭を下げてくるウマ娘、ウオッカちゃんの言葉に私はニッコリと微笑むしかなかった。
このウマ娘はウオッカちゃん。
東京優駿に勝利するなどGI通算7勝を挙げ、史上最強牝馬とも言われており、同世代のダイワスカーレットとは激しい争いを何度も繰り広げ、ともに牝馬ながら牡馬と互角以上に渡り合った。
アンタレスのヤバいは大体、ミホノブルボン先輩とかライスシャワー先輩とかが主で、あとは別の意味でキャラがヤバい人達がいるという事なんだろうな、タキオン先輩とか。
あ、大事な事忘れてた、チームトレーナーもヤバい人でしたね、いやー凄いなーアンタレスはー。
そんな中、ガチャリとスピカの部室の扉が開く音が聞こえ、私は思わず、ヒィ!? と声を上げてしまう。
そうして、扉を開いて現れたのは…。
「おーい、お前達ー、何してんだ? おっ?」
「あ、トレーナー」
「んあ? あぁー! アフちゃんじゃーん! 何してんのさぁー! こんなところでー! もがっ!」
「シー! お願いだからトーン落としてトーンッ!」
そう言って、私は大きな声で名前を呼んでいるゴールドシップの口を慌てて両手で塞ぎにかかった。
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