第13話 パシフィカ・マニフィカス
ヒンデンブルク広場の発見、とりわけ刃物類の発見は私たちの生活に劇的な変化をもたらした。
とにかく、その刃物の切れ味は凄まじく、一刀のもとに大木を切り倒す。
短剣、斧、鉈なども非常に便利で、特に斧はノミのような使い方もでき、それで石を削ったり、真っ二つに綺麗に割る事もできる。
「よーし、慎重にやれ」
薪拾いの呪縛から解放された管理班のメンバーは日々様々な物を作っていた。
私はルビコン川のほりとで釣り糸を垂れながら、そんな彼らの作業を見守る。
「いいぞ、心棒を通せ」
大きな木造の車輪状の物体……。
そう、水車だ。
「位置はいいな? 固定するぞ」
で、この水車は何に使うかと云うと、水汲みだ。
水車にはいくつものバケツが取り付けられていて、水車が回転する事によって、水を汲み、そして、その水を水路に流し込む。
水路は別に地面を掘った手の込んだものではなく、木製の細い水路、よく屋根の端に付いている、のきどいみたいな造りになっている。
それを長く繋げてラグナロク広場まで通してある。
「よーし、いいな、水を流すぞ」
と、川の一部をせき止めていた石をどかして水を流し込む。
すると、ゆっくりと水車が回りだす……。
そして、装着されているバケツが水を汲み、それを水路に水を流し込む……。
「おお、うまくいった!」
「これで、水汲みの重労働から解放されるぞ!」
「やったぁ、うれしい!」
見学に来ていた生活班の人たちからも歓声があがる。
それは、そうだよね、管理班の薪拾いと生活班の水汲みが二大重労働だったからね、その二つがなくなるのは大きい。
「次はお風呂だよね、楽しみ!」
「念願の湯船が作れるぜ!」
「露天風呂は男のロマンだよな、いったいどんなドラマが待ち受けているんだろうか……」
次はお風呂を作るらしい。
さっきも説明した通り、斧を使って石を割る事ができる。
その平らな石材を使ってお風呂を作る計画が進行中だ。
私はみんなの喜ぶ姿を横目に釣竿をちょんちょんとする。
「ああ、またエサだけ取られたぁ……」
と、糸を引き上げる。
釣り針には返しがついてないから、タイミングを合わせてひっかけないと釣れない。
「慣れだよ、ナビー、そのうちうまく釣れるようになるさ」
と、秋葉蒼が魚を釣り上げながら笑う。
私は虫の幼虫を掴んで釣り針に刺して、また川の中に放り込む。
しかし、もう二週間かぁ、ここに来てから……。
長いようであっという間だったよね。
きらきら光る水面をみながら、しみじみ感慨にふける。
「水路の水漏れがない確認しながら帰るぞ」
「うっす」
と、管理班の人たちや見学に来ていた生活班の人たちがルビコン川から撤収していく。
「それじゃ、俺たちも帰ろうか、もう十分だ」
和泉が魚の入ったバケツを覗き込みながら言う。
「うん、そうだね、今日、明日分くらいは大丈夫そう、それにもうすぐお昼ごはんだしね」
私もバケツを覗き込んで答える。
だいたい、バケツいっぱいを二つ、50匹くらい釣れた。
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