評決、きたりませ
我々は世界がもう二度と元の姿には戻らないとわかった。
笑った人が少し。
泣いた人が少し。
ほとんどの人は黙っていた。
――ロバート・オッペンハイマー
全てが取り払われた世界で、いくつもの火柱が立ち昇っていた。
それは巨大なブースターユニットを備えたものであり瞬く間に例え地球最強とも過去称された兵器アーマードコアでさえ追尾不可能な速度域に達すると地球という惑星から遠ざかっていく。地球衛星軌道上に設置されたそれに荷物を運ぶためである。その巨大な建築物は箱舟と称されていた。
その火柱を見上げる人たちは咳き込んでいた。女性の腕に抱かれた赤子も、同じように。
あれは人の希望であり、彼らの絶望だった。
箱舟に乗ることができるのはほんの一握りの裕福な人たち。選ばれなかった人たちは大地に取り残された。
過去、人類は多くの過ちを犯してきた。
エネルギーと物質が等価であるという発見は、人類の思想そのものを一変させた。
地球もっとも恐ろしく、愚かしく、美しい兵器は、人類に対して明確な敵意と好奇心をもって行使された。その威力を思い知った人類はそれでも戦いを止められなかった。
多くの資源が浪費された。大気と土壌の汚染は進行し人口爆発に歯止めをかけられるものなど、もはや存在しなかった。
コモンズの悲劇とでもいうべきそれは、資源を奪い合うだけの醜い戦争となっていた。
国家という枠組みがもはや役割を担えなくなってしまった時代。
新たに台頭してきた企業はまさに資本主義の怪物であった。合併吸収と提携を繰り返しウィルスが如き速度で増大する。軍と、それを取り巻く産業をも掌握した企業群を国家は制御することができなくなっていた。
そして破局のときが訪れた。
国家解体戦争である。
新兵器アーマードコア・ネクストの投入により戦争は企業の勝利で終わった。
主権をはく奪され全てを失った国家はここに人類上から姿を消した。
企業はパックス・エコノミカ体制の樹立を花々と宣伝した。
企業はネクストが生じるコジマ粒子によって汚染された大地に根を伸ばしていき、同じように資源の奪い合いを始めた。
企業間紛争の勃発。初の戦いとなったそれはリンクス戦争と呼ばれ、ネクスト操縦者が入り乱れる争いとなった。
戦いはいくつかの企業の崩壊と二人の傭兵の戦いで締めくくられた。
大気と土壌の汚染は深刻化の一途を追っていた。
オルカ旅団を名乗る武装集団が一斉に蜂起。空を覆うアサルトセルを破壊して人類は宇宙に逃げることを主張した。
過去、企業が犯した罪。コジマ汚染。そして、アサルトセルによる宇宙進出の阻害。宇宙開発の果てに自ら自律兵器によって全てを封じ込めてしまったというあまりに愚かなこと。
蜂起は成功し、多くのリンクスが死亡するも、成し遂げられた。
企業の支配の象徴であるクレイドルは大地に堕ち、体制は崩壊した。
人類は否応なしに宇宙へと旅立つことになった。
ネクストと、リンクスは時代の陰に葬り去られた。
地球のダメージは深刻でありもはや人類が生存していける状態ではなく、また安全圏であったはずのクレイドルも飛行することができないでいた。
多くのネクスト技術が宇宙開発へと向けられたが、犠牲は大きく、多くの人間が死に絶えた。
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