再開と後悔
クワトロの衝撃的な新型機受領テストの余韻も冷めないうちに、エゥーゴはウォン・リー、つまりはアナハイムの強い意向に押し負け正式にジャブロー攻略作戦を承認した。
しかしこれには大きな課題もあるとクワトロたちは懸念していた。
月に駐留しているエゥーゴが地球の地下に居を構えるジャブローへ攻撃を仕掛けるには大気圏突入による降下作戦しかないがそれは帰りのない片道キップ。大規模なマスドライバー施設を持たないエゥーゴは戦力の大部分であるサラミス級やアーガマなどの艦船を率いて地球に降下する訳には行かなかった。
また、仮に降下できたとしてもジャブローの強固な対空網にとって巨大で鈍重な艦船はいい的でしかないことは今もジャングルに放置され朽ち果てたガウ攻撃空母が黙して語っている。更には作戦が失敗すればエゥーゴは事実上壊滅、成功したとしても船をもう一度宇宙に上げることは困難を極める。
よってそこから導き出された作戦は単独での大気圏突入装備、バリュート改装を施したモビルスーツ部隊による衛星軌道上からの直接降下であった。これならば最悪の事態に陥ったとしても損害はモビルスーツだけで済む他に、作戦の展開もよりスピーディーに運べる。
「でもそれって、パイロットはどうやって宇宙に帰るんですか?」
作戦内容を聞かされたエゥーゴの面々の中で開口一番に出たカミーユの疑問にクワトロは一言だけ冷たく答えた。
「作戦を成功させることだけ考えろ」
少女は不安げな表情を浮かべてタラップをつたいテンプテーションから降りた。狭い連絡船から空間の広い艦船にいることで解放感を得られるも自分の置かれている状況が彼女の心に暗い影を差していた。
彼女の身に起きたことは未だに彼女自身も信じられない思いで一杯だった。突然のMSの急襲、親友の失踪、あらぬ疑いをかけられ生き別れた両親、少女にとっては何が何やら分からぬままこの戦艦アーガマへと流れ着いた。
少女たちを含めた避難民をここまで案内してくれたテンプテーションのブライト・ノア艦長はもう大丈夫だと言ってくれた。しかし少女の生活全てを害したティターンズからは逃げられたがそのティターンズと対立している武装組織の艦船に逃げ込んで何処が安全なのだと言いたくもなる。他の避難民も同様にこれからのことを悲観し安堵の表情よりも困惑や焦燥といった態度が見て取れる。
「ファ姉ちゃん、僕たちこれからのどうなるの?」
「もう怖い目に遭わない?」
それでも泣き出したい気持ちをなんとか抑えられたのは少女の傍らに寄り添う二人の小さな兄妹の存在が大きかった。共に避難船で出会い両親と離ればなれという共通の境遇が短い間で三人には絆ができていた。
多くを失ったからこそ、ファには同じ境遇の者の痛みが分かった。それが自分よりも幼い存在ならば尚更だった。
「⋯⋯大丈夫よ。ブライトキャプテンが言ってたでしょ? ここは安全よ」
せめて自分だけはしっかりしなければならないと襟を正すが、彼女もまだ子供。その胸中は穏やかではなかった。
カミーユ⋯⋯何処にいるの? あなたは無事なの?
守るべき子たちに心配をさせない顔の裏で、グリーン・ノアで別れたきり音信不通であった親友の無事を願い続けていた。
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