塵芥
‐side 琴里
異常事態であるということは分かっている。私の脳も、先ほどまで思考を停止し、ただそれを見るのみであった。
眼前の巨大モニタに映るのは、しんしんと降る雪の如き紙の束、その中にただ直立する千代と反対に何度も攻撃を試みるエレン・メイザース。そして、胸に大きく穴の空いた士道の横たわる様である。
だが、私たちが目を見開き、理解しようと躍起になるのはそこではない。その周囲の建造物、自然物に起こる異常現象だ。
直線的に線が入り、そこから付箋を剥すようにぺりぺりと捲れていく。もう既に幾つかのマンションが紙に化けてしまった。
その異常現象は天宮市の中央に大きな空間を作ってから停止した。
無数の紙は千代の周りを回り続けているか、もしくは武器を作り上げエレンを殺さんと向かっていた。それらは切られても切られても、再び形を作り上げる。
先日のような紙飛行機などは見当たらない。全てはエレンを殺すために、殺傷力の高い槍や刀、剣となっている。弾丸らしいものも垣間見えた。
はっ、と一同が我に帰り、すぐさま手元のコンソールを操作する。既に他の精霊たちはフラクシナスに集めた。いざというとき、彼女達に戦ってもらわねばならないかもしれないからだ。否、彼女を止められる人間は、精霊はいるのだろうか? いないのかもしれない。あのエレンでさえ、ただの一つと傷を付けることが出来ず、むしろ劣勢に立たされているのだから。
「まずは士道を回収して! それから・・・いざというときのために<ミストルティン>の準備も。随意領域を全て防御に」
私は指令を出すのでやっと。いや、それが仕事だ。彼らの脳にならねばならない、それが私の選んだ道だから。
‐side 千代
あの女はなんだったのだ。最初は余裕の顔を見せてきた。腹立ったから幾つも槍を飛ばしてやった。したら急に真剣になったのだ。なったところで何か私に変化はないが。
天使の一部は私の周囲を廻っており、攻撃を防ぐ。残りの街(街と呼べるかはしらないが)に積もった紙は私の意志でもって彼女を殺す。
否、殺してはならない。それだけでは、私の怒りは収まらないだろう。
一つの柱を失った私の心は壊れている。それを私は理解している。それだけで十分だ。
「邪魔をするな。機械共よ」
後方に見える飛行艦隊から次々と機械の兵士が飛んでくる。中には人間も見えた・・・気がするが、まぁ、どちらにせよ塵芥には代わらない。
「これは・・・退かねばなりませんか」
「させるか。お前はここで死ぬんだよ。そう教えられたろう」
女の足を、紙が掴んだ。無意識だった。それほどまでに私は怒り狂っているんだろうか。にしては視界が赤く染まらんな。
「ぐっ、離しなさい」
「あぁ。そうしてやろうか」
離し、直後それを鋏の形に変え、女の足を切り落とす。膝下を全て斬るつもりだったが、どうやら少し遅れたらしい。足首より下だけが地面にどさりと落ちた。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/3
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク